「『これは!』というピッチャーがいればいいんだけどね…。キャッチャーをチェックしにきた球団もあるみたいですよ」(在京球団職員の1人)
今回、トライアウトに臨んだ捕手は3人。ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜を渡り歩いた39歳のベテラン・野口寿浩、横浜育成枠にいた杉本昌都(21)、福岡ソフトバンクホークスの荒川雄太(23)である。一部報道によれば、FA権の行使で正捕手を失う埼玉西武が荒川に興味を示しているという。1人でも多くの受験選手に『再起の場』を勝ち取ってもらいたいものだが、同日、西武ドームに駆け付けたファンからもっとも熱い声援を送られていたのが、堀幸一内野手(41=千葉ロッテ)だった。
堀選手はトライアウト後、囲み取材に応じてくれた。
−−シート打撃5打席で、本塁打を含む2安打。いいアピールができたのではないか?
「やるべきことはやった。結果が出せたことは嬉しい。まだ身体が動くところを見せたかったし、実際に動けたので良かったと思う」
−−チームはクライマックスシリーズ(以下=CS)、日本シリーズに勝利したが…
「一緒にやってきた仲間だから、勝ったことは素直に嬉しい。でも、その反面、寂しいとも思った」
−−トライアウトの当日まで、どう過ごしてきたか?
「1人で練習してきました。時間にして? 2時間ぐらいかな。怪我をしても仕方ないし、いつも通り、いつもの練習をして…」
−−今日を迎えるまでの心境を…。
「正直、もう(野球は)いいと思ったときもありました。でも、やっぱり野球がしたいとも思いましたか。その両方でした」
−−家族は何と言っている?
「ここまで(現役を)頑張ったんだからと応援してくれました。子供も続けてほしい、と…。いい報告ができそう? 今日が終わりではないので、結果が出るまで頑張っていきたい」
−−新天地について、何か希望は?
「ユニフォームが着られるのなら、12球団どこでもOK。独立リーグ? そのとき(オファーが実際に来たら)、考えます。決めなきゃいけないときになったら、続けるかどうか、考えます。野球をやりたいとは思うが、(これから先、野球を)やるか、やらないかはお金ではない。もちろん、野球ができればどこでもいい。たた、ファンが多い球場でとは思う。ああいう、緊張感を味わいたい。少しでも、(現役続行の)可能性があるのならば…」
−−日本一に輝いたチームメイトにひと言…
「日本シリーズは正直に言うと、見てないんです。CSでの勝利、日本一は本当に嬉しい。おめでとうと伝えたい。その場にいられなかった寂しさもあるし…、1人でみんなと離れて二軍にいて、考える時間がたくさんあったんで…」
複雑な心境を垣間見ることができた。CS、日本シリーズを勝利した古巣に対し、祝福を伝えると同時に、「テレビ中継は見ていない」と言ったこと…。同僚たちの奮闘を直視できなかったのだろう。今季、若手にも出場機会を奪われ、二軍暮らしによって「考える時間がたくさんあった」とも吐露している。
現役を続けたいとしながらも、引き際も意識したと話す気持ちの揺れ。我々取材陣は必死に練習する様子を聞こうと、練習時間まで聞いてしまったが、ベテランは自分の身体の鍛え方を知っている。「2時間」は確かに再起を目指す者の練習時間としては少ないかもしれないが、どういう練習を集中的にやればいいのか、それは身体が覚えている。経験に裏打ちされたキャリアであると同時に、ここまで現役を続けてきた歳月がいかに充実したものであったかを証明するコメントでもあった。
千葉ロッテは中核選手の西岡剛内野手(26)のポスティングによるメジャー挑戦を認める方向だという。近い将来、西岡に匹敵する内野手が出現するかもしれないが、ベテランが練習する姿は「生きた教材」でもある。この日、やはりトライアウト会場に姿を見せたもう1人のベテラン、野口捕手にインタビューしたことがある。彼は低迷するベイスターズを見て、「たとえば、佐伯(貴弘)さんが何故、こんな練習をしているのかを考えるだけでも」と、若手に訴えていた。プロ野球チームが世代交代を進めるのは当然だが、経験の浅い若手を牽引できるベテランの必要性を再認識させられた。堀、野口、佐藤誠投手(35=ソフトバンク)、萩原淳投手(37=ヤクルト)、本柳和也投手(34=オリックス)、小林雅英(36=巨人)、前川勝彦(32=元オリックス)、北川隼行(32=横浜)、澤井道久(31=中日)…。33人の受験者のうち、30歳以上は17人だった。「良い働き場所を」−−。彼らにエールを送りたい。(スポーツライター・美山和也)