あくまで単なる伝説に過ぎないのだが、勝手に障子が開く、物品がひとりで動くなど奇妙な現象が続き、昭和40年代末期には、この屋敷の住民たちも町に下りてしまった。かの昭和最強の霊能者・宜保愛子ですら、TBSの番組取材でこの山伏屋敷付近に近づいた時、あまりの異常な霊気に入ることはおろか、近づくことすらも拒否したと言われている。
元々、俳優の竹中直人がこの屋敷に泊まり、心霊体験をするという企画であったが、宜保愛子に猛反対され、急きょ撮影場所が変更されたという。その後も、山伏屋敷は心霊スポットとして近隣住民の間で多くの噂が囁かれた。こんな事件もあった。屋敷の近くで道路工事を行っていた。町までは遠いため作業員は、この屋敷を飯場にすることにした。幽霊の噂は聞いていたが、屈強な作業員だけに、それぐらいでは驚かない。
親方を中心に、夜遅くまで酒盛りをしていると親方が奇妙な足音を聞いた。「おや、誰かいるのか?」と思い部屋の周りを見回したのだが、誰もいない。さしもの親方も気味が悪くなり、作業員たちに寝るように促した。彼らが寝静まったころ、親方はこちらに近づいてくる足音が聞こえた。
部屋中、いや屋敷中に響き渡る謎の足音。怪異はそれだけでは終わらない。急に作業員のひとりがうめき声を上げ始め絶叫したのだ。「誰かが俺の首を絞めてる!!」。だが、その時、彼の周りには誰もいない。それだけではない。全員が次から次に首を絞められたのだ。よだれをたらしたまま気絶する者、手を振り回して必死に逃れようとする者。そして、あまりの恐怖から、作業員たちは一目散に屋敷から逃げ出したのだという。
ほかにも民宿・御伽屋のご主人S氏が20年前に友人たちとこの屋敷に泊まった時は、障子が勝手に開いたり、家全体がまるで地震のように揺れたりする怪現象が起きている。まさに遠野の現在進行形の伝説なのだ。
この東北最凶の心霊スポットである山伏屋敷に、カメラが潜入した。ホラー作家である私のドキュメントDVD「山口敏太郎Bファイルシリーズ」の取材で、この屋敷にカメラが迫ったのだ。
私は、友人の怪談師・ファンキー中村やスタッフを連れて果敢にルポを試みたのだが、現地では怪異に遭遇している。霊たちの干渉であろうか。ポラロイドカメラが3枚撮影した時点で謎の故障を起こし、ビデオのバッテリーが使えなくなったのだ。これも、原因は分からなかった。しかも、撮影したビデオや写真の中にはさまざまなものが写り込んでいた。
不鮮明な霊が多数写っていた上に、一般の人間が見ても明らかなオーブや妖気らしきものが写り込んでいたのだ。霊感の強いファンキー中村はどうしても山伏屋敷に近寄れなかった。彼が言うには、屋敷の周囲に山伏の霊を核とした大勢の動物霊などが蠢(うごめ)いていたというのだ。途中で尋常ではない気配を察知した私が、早々に引き上げるように指示したため、今のところ共に行ったスタッフたちに霊障はない。
長い年月を経た今でも、殺された山伏の恨みは消えず、ドス黒い怨念はその場に残り続けているのであろうか。