『月蝕楽園』 朱川湊人/双葉社 1500円(本体価格)
今現在、恋愛と全く無縁の小説がどの程度出版されているのか、ふと思ったりする。いわゆる恋愛小説というジャンルに組み込まれていない作品だから異性同士、あるいは同性同士の愛欲、性欲には触れていない、といった例の方が少ないのではなかろうか。
実際、いかなる恋愛感情も拒否して生きていられる者はいない。片想いであろうと、過去の回想であろうと、愛欲、性欲にとらわれた状態であることは間違いないのだ。フィクションの中で生きている人々もしかりである。
本書『月蝕楽園』はまさしく、このとらわれの状態に焦点を絞った短篇集だ。ダークな色合いが濃い恋愛小説集、と言ってもいい。しかしそもそもダークな気分は恋愛に付きものなわけだから、正当な書き方がされている、とも言える。
収められている5篇全てのタイトルに人間以外の動物、すなわち魚、爬虫類、鳥などの名前が含まれている。「みつばち心中」の主人公・美也子は事務用品の製造販売をしている会社に勤める独身女性だ。40歳を過ぎて肩書きは主任。男性中心の会社の体質は相変わらずで、今後の出世はあきらめている。しかし彼女は甘美でかつ異常な愛の想い出を持っていた。その愛は現在大病で入院している同性の部下がいなければ、決して芽生えなかった…。「眠れない猿」は30代後半のさえない男・春山の哀しい物語だ。子供のころから全く取柄のない外見がゆえ周囲からさげすまれ、卑屈に生きてきた。そんな彼にもようやく彼女ができた。一転、バラ色の毎日が始まった。しかし、それは新たな悲劇の口火に過ぎなかった…。
愛を欲する渇望の心は間違いなく人間の本能に属しており、動物的なものと言ってもいい。それでいながら何と複雑で重々しく、切なげなものであろうか。理想化されていない愛の形が描かれた短篇集だ。
(中辻理夫/文芸評論家)
【昇天の1冊】
マジックミラー号といえば、コアなAVユーザーでなくとも一度は耳にしたことがあるだろう。トラックの荷台がマジックミラー仕様になっている特殊車両のことだ。
荷台の中は外からは見えないが、中から外は丸見え。そうした特徴を駆使し、ナンパした女性を荷台に連れ込みエッチしてしまうというAVメーカー・ディープスの名物作品だ。
その総集編ともいうべきDVDを付録として付けた雑誌が発売された。ソフト・オン・デマンドDVD9月号増刊『マジックミラー号Magazine 2014 Summer』(ソフト・オン・デマンド/980円)である。
夏真っ盛り、全国各地のビーチに現れる水着の素人美人を、撮影スタッフやAV男優が言葉巧みに口説き落とす。そして荷台で性行為に及ぶ。外から中の様子はわからない…とはいうものの、突然の成り行きに焦りと戸惑いの表情は隠せない。赤裸々かつリアルな反応が見ものだ。
毎年8月に増刊号として発売する定番雑誌らしく、付録DVDは240分もの長時間映像を収録。また、登場する女のコたちも、すでに発売されたシリーズの中から、人気の高かったOL、女子大生らをえりすぐったとのこと。
真夏の太陽に照らされたマジックミラー号車内は、おそらく温室ハウス並みの酷暑。その中で汗だくで絡み合う日焼けした美女の裸体は垂涎モノだ。
開放的な気分になり過ぎた女たちの“夏の過ち”を盛りだくさんに詰め込んだ、これぞ“昇天の1冊”だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)