藤岡 10数年間ボランティア活動で世界中を回り、修羅場の状況を目にしました。アフリカのコソボの難民キャンプを訪れた際には、親が虐殺された子どもばかりで、大人を信じなくなっており、われわれが持参した物資を手渡しても全く手を付けない。そこでアンパンを口にしてみせると、安心したのか、やっと取りに来た。そういった民族の軋轢や悲しみ、歴史に触れて、あらためて「人間とは何のために存在し、どこへ行こうとしているのか」、また「なぜ愚かな争いをしなければいけないのか」と考えさせられましたし、私自身、涙が止まらなかったんです。
そこで私がたどり着いた真実が、先祖や血統が“本質”であるということです。それ以来、すっかり生き方まで変わってしまったんですね。
−−まさに生死を分ける状況に身を置いたということですね。
藤岡 そういった危険地帯で「生きるか、死ぬか」を経験すると、人間の本質を意識し始めます。例えばクウェートでは、イラク軍によって家を破壊し尽くされ、家族全員が殺されかけたけれども、子どもひとりだけを天井裏に隠したおかげで、家族の中で唯一生き残った子どもがいます。その話を聞いて、人間は奇跡の存在なんだな、とあらためて感じましたね。もし、その子どもを天井裏に隠さなければ、その家の血統は途切れてしまったかもしれない。もしかしたら自分の祖先にも同じようなことがあったかもしれない。そうすると自分はどうやって生き残ってきたのかと考えると、やはり本質を意識しますね。
−−そのような悲惨な状況を目にし、落ち込むことはありませんか?
藤岡 世界中を回り、最悪を見てきたおかげで余計なことを考えなくなったせいか、落ち込むことは一切なくなりました。生き抜くことの大切さを何が起きても、どんな状況になっても、生きて生きて生き抜く努力をし続け、あきらめない。悪い事態に陥ったとしても、そのことが「教えてくれているんだ」と発想をプラス方向にするように変わりましたね。これまでの人生で、夢ばかり見ていたせいかもしれませんが(笑)。
−−そうした場所へ突き動かすものとは?
藤岡 自分でもわからないですが、あるお坊さんには「先祖が教えてくれている」と言われました。好奇心が旺盛で、危険とわかっていても行動してしまうのは、先祖からの遺伝子のなせるワザかもしれませんね。
(聞き手:本多カツヒロ)
藤岡弘、(ふじおか ひろし、)
1946年、愛媛県生まれ。俳優・武道家。'65年、松竹映画にてデビュー後、青春路線で活躍。'71年、主演の特撮テレビドラマ『仮面ライダー』で一躍ヒーローに。