『永久に刻まれて』(S・J・ローザン/直良和美=訳/創元推理文庫 945円)
アメリカの女性ミステリー作家S・J・ローザンが書く〈リディア・チン&ビル・スミス〉シリーズは、今や日本での人気を完全に確立していると言っていい。最初の長篇は本国で1994年に出て、それが『チャイナタウン』というタイトルで'97年に邦訳紹介された。以後、全ての長篇がコンスタントに訳されてきた。これは特に珍しいことではないが、どの作家にも当てはまることでもない。つまり人気が出なければ訳されることも出版社の判断でストップとなるわけだ。今後も本国で刊行されていくであろうこのシリーズが訳され続けるのは間違いない。
人気の最大の理由は、ただ一人の主人公が活躍するわけではなく、中国系アメリカ人女性リディア・チン、大柄だが繊細な内面を持つアイルランド系アメリカ人男性ビル・スミスが各々の長篇で語り手役を交替するところだろう。二人はそれぞれが独立した私立探偵だが、相棒としても協力し合う。恋人関係にはない。この手法は、例えばリディアが語り手の回ではビルに対する印象を書けるので、シリーズを何冊か読んでいるうちに二人の人物像がより強く印象付けられるわけである。
本書『永久に刻まれて』は日本独自に編まれて昨年刊行された短篇集だ。まさしく長篇の魅力をコンパクトに凝縮しており、リディアとビルの活躍を一気に楽しめる本である。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『日本共産党の深層』(大下英治/イースト新書・966円)
「原発再稼働反対、ブラック企業告発、憲法9条堅持」の共産党が政権を狙う日−−。反自民の受け皿政党として昨年夏の参院選で躍進を遂げた日本共産党は現在、民主連合政府樹立を視野に入れている。いよいよ本格的な“自共対決”の時代がやって来るのか。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
隔月刊誌『ワイン王国』(ワイン王国刊/1500円)は、世界中のワイン案内をはじめグルメ&観光スポットなどを掲載した専門誌だ。生産者やソムリエの監修のもと、日本でも入手可能なワインをズラリと並べている。
しかも高価な商品だけではなく、1000円台で購入できるお手頃ワインも豊富に取り揃え、フトコロにも優しい情報が満載。
ビタミンやポリフェノールを含み健康促進にも効果的といわれるワインだが、ビールや日本酒党にはやや敷居の高い印象があった。そうした先入観を取り除き、ちょっと“通”を気取ってみたい向きには最適のガイド本といえるだろう。
現在発売中の3月号では、カリフォルニア産を中心にアメリカワイン100本を紹介している。愛好家の間で新しい潮流として注目を浴びているらしく、現地のワイナリーを直接取材したリポートが斬新。ほろ酔い気分が刺激される。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意