S子さんの通っていた高校は、有名進学校だった。神道系の学校なので、いわゆる「七不思議」とか「学校の怪談」などは無縁だった。
だが、そんなS子さんの学校にも唯一、怪奇現象があった。
校門から入ったところの正面にある校舎。
ある時、その二階の窓ガラスの一枚に、黒っぽい染みのようなものができた。
最初はただの汚れかと思われた。しかし日を追うごとにその染みは鮮明になってきた。
「誰が見てもすぐに分かったわ。男の子だった。昔風の学ランに学生帽を被っていました」
窓ガラスを拭いてみたが、窓ガラスに現れた男の子はさっぱり消えなかった。
「それどころかますますはっきりしてきて、哀しげな表情までわかるようになってきたんです」
男の子は、行き交う生徒たちを、二階の窓から物憂げな瞳で見下ろしているようだった。
学校側も不気味に思い、窓ガラスを新しいものに取り替えてみた。しかし何と、しばらくするとまた男の子が現われたのだった。何度取り替えても駄目だった。
「雨が降っているときは、窓ガラスを伝う水滴がまるで男の子の目から流れ出る涙のように見えて、とても哀しい気持ちになりました」
生徒たちの間でも、学校の怪談として語られた。結局、S子さんが卒業するまで、ずっと男の子はそこにいたという。
その話を聞いた後、S子さんの高校を訪ねてみた。
しかし、男の子が浮かぶ窓ガラスを発見することはできなかった。
S子さんにそのことを報告すると、
「そういえば。最後に彼を見たとき、なぜか微笑んでいたの。もしかすると浄化したのかもしれないわね…」
と呟いた。
(怪談作家 呪淋陀(じゅりんだ)山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou