4月25日、敵地・神宮球場で迎えた東京ヤクルト戦、菅野智之投手(29)は12安打を浴び、4回途中で降板した。
「巨人はここまで6連勝。エース菅野で連勝を『7』に伸ばすとみられていました。もっとも、菅野は神宮球場と相性が悪く、公式戦では通算9試合で1勝6敗の成績でした」(ベテラン記者)
巨人関係者によれば、ゼロに抑えていた試合序盤から「イヤな雰囲気」は感じていたという。この日、菅野−小林誠司のバッテリーがウイニング・ショットに選んだのは、外角のスライダー。しかし、ヤクルトの左バッターは右手一本になってでも、そのスライダーを当てに行った。力のない打球が内野手の前に転がった。この様子に、「何でこんなヘンな打ち方をするんだ?」と、菅野−小林のバッテリーはイヤなものを感じていた。
ヤクルト側の作戦は、こうだ。
「菅野はコントロールの良いピッチャーです。変化球も多彩で、一球一球の精度も高い。その変化球を、たとえヒットにならなくてもコツコツ(バットに)当てれば、心理的な動揺を与えられます。ストレート勝負に切り替えさせる作戦」(スポーツ紙記者)
菅野はその術中にはまったというわけだ。
「試合途中で、バッテリーが配球の組み立てを変えるのはよくあること。小林が臨機応変に対応しきれなかったという見方もできます。彼だけのせいにしたら、かわいそうですが」(プロ野球解説者)
巨人は今季、キャッチャー陣を「4人態勢」にして試合に臨んでいる。通常は3人態勢だ。ベテラン阿部慎之助がキャッチャーに再コンバートしたためだが、22試合を消化した同時点でまだ先発マスクをかぶっていない。
「キャッチャーは体力をすり減らすポジションです。阿部がスタメンに出てくるのは、指名打者制が使える交流戦になると予想されています」(前出・スポーツ紙記者)
阿部のキャッチャー再コンバートだが、「引退も近い。チーム功労者である彼の希望を尊重したもの」との見方が大半だった。間違いではない。しかし、原監督は阿部をキャッチャーで使うタイミングを見計らっていた。
「阿部がキャッチャーに戻るとの一報が出たのは、昨年オフでした。巨人投手陣は『阿部さんにもう一度受けてもらえるんだ』と、喜んでいたんです。長くキャッチャーを務め、投手陣からの信頼は絶大ですからね」(球界関係者)
原監督の狙いはここにある。信頼の厚い阿部にマスクをかぶらせたとき、巨人投手陣の士気は一気に高まる。それを勝負どころで利用しようと考えていたのだ。
「最下位に低迷していた広島が息を吹き返しつつあります。巨人サイドは広島をライバル視していましたが、復調はもう少し後になるとみていたんですが…。ヤクルトも好調です。巨人がこの先も有利にペナントレースを進めるには、今、チームを活気づけるような何かが必要でしょう」(前出・同)
それが、捕手・阿部のスタメン起用だ。原監督はペナントレース終盤までこの切り札を温存するつもりだったが、菅野のノックアウトで考え方を変えたそうだ。巨人が「阿部のチーム」だということを再認識させられた。
(スポーツライター・飯山満)