『脳内麻薬』(中野信子/幻冬舎新書 798円)
基本的に人は気持ちのいいことを探して生きているのかもしれない。本当に、心の底からやりたくない仕事を毎日続けているのは辛いだろう。さぼって酒を飲んだりギャンブルに溺れたりしたくなる。ところが、幸いにやり甲斐のある仕事に従事していれば熱中できる。つまり、性格が不真面目だから仕事をきちんとこなさないとか、真面目だから仕事にまい進できる、などとは必ずしも言い切れないのだ。快感をもたらしてくれることであれば、人は進んで行う。
本書のサブタイトルは《人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体》だ。医学博士、脳科学者である著者が、まさしくドーパミンという快楽物質が脳から分泌される仕組みを丁寧に解説してくれる本である。ページの最初のあたりでは、まず根本から脳みそというものの構造、仕組みを深く掘り下げ、そこから次第にドーパミンが分泌される状況の例を一つひとつ挙げていくのである。
違法ドラッグがどうして人に快楽を与え、依存症を引き起こすまでになるのか分析するページが実に読ませる。続いて摂食障害、恋愛依存症などなどマイナスの快楽行動を紹介する。ところが後半では、仕事にまい進するというようなプラスの行為の快楽を取り上げていく。
おそらく建設的で前向きな生活から快感を得られれば幸い、そう思わせてくれる本だ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『カラダ・プロファイリング』(おのころ心平/集英社・1260円)
手を組んだとき、左右どちらの指が上か? 腕を組んだときはどうか? 無意識の「クセ」は、実は的確に性格や考え方を表す。クセを読み解き、あなた自身のカラダへの気付きを促して、疲れやストレスを寄せ付けない方法を指南!
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
出版社が発行する『世田谷ライフマガジン』(880円)は、東京・世田谷区を取材対象とした地域限定型マガジン。
世田谷といえば、都内有数のセレブタウン。三軒茶屋や下北沢といったテレビでも頻繁に取り上げられる商業エリアをはじめ、自由が丘、等々力、経堂、豪徳寺等の高級住宅街など、広い範囲にさまざまな街が分布していることで知られる。
住宅街に隠れ家レストランや洒落たカフェも多く、女性、特に主婦にとってはステータスの高い憧れの地域だ。
最新号で取り上げているエリアは、成城学園前、祖師ヶ谷大蔵、千歳船橋。新宿を始発に、神奈川県小田原方面に向かう私鉄沿線がテーマだ。地元で評判のうまい店の紹介は言わずもがな、面白いのは意外と知られていなかった街の“歴史”にスポットを当てているところにある。
町歩きのガイド本として、この春に上京予定の読者にもお薦めの1冊。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意