そんな折、ちょっと気になる話題を耳にした。和食に合うビールが売れているというのだ。銘柄は「サントリー 和膳」で、ビールと食事をゆっくりと味わいながら楽しむことをコンセプトに開発された「和食専用の生ビール」。厳選された5種類の麦芽を使用し、やさしい口当たりと繊細な旨味が特徴の和膳は、4月に発売されるや否や、販売店から予想を上回る注文で、当初計画の2倍の一斉出荷量を達成してしまったそうだ。
なぜ、和膳が和食に合うのか? 日本の食文化に精通し、「和食 日本人の伝統的な食文化」のユネスコ世界無形文化遺産登録に多大なる貢献をした熊倉功夫教授(静岡文化芸術大学学長)に聞いたみた。
熊倉教授は、「和食の一番の基本は旨味」という。「だしの場合は、鰹にしても、昆布にしても、純粋に旨味成分だけを引き出して、あとは全部、捨ててしまいます。西洋や中国にも旨味を引き出したスープなどはあるのですが、脂肪分やゼラチン質が残っていたりします。雑味を一切捨てて純粋にだしを取るという発想はありませんでした」と解説してくれた。
また、「日本人は、食べ方として、おかずとご飯をいっしょに食べることを大事にしています。刺身でも、刺身だけを食べるのではなく、刺身とご飯をいっしょに食べます。食べ合わせることによって味を作りながら食べる、それが日本人の特徴的な食べ方といえるのです」とも。
和膳について熊倉教授は、「強烈な個性というよりは、繊細な感じがしました。柔らかくて、料理の邪魔にならない感じです」と印象を語った。「和膳の作り方を見るとかなり複雑で、5種類の麦芽を使っています。色々な麦芽を使って、いい所取りをしているということだと思うのですが、和食の場合も、例えば、昆布のだしと鰹のだしを合わせていい所取りをすると、旨味が増していきます。和膳は作り方の段階から、和食の伝統を取り入れたのかなという印象を受けました」と語ってくれた。
「先ほども言いましたが、刺身を食べていても、何か相手がなければおいしくありません。和膳なら、口に脂味が残るマグロや中トロが合うのではないかと思います。和膳で脂味を流しながら口の中を新鮮に保つという、舌を復活させるような食べ方です」
「料理によって日本酒の銘柄を選ぶことはしますが、和膳の発売で、ようやく和食にビールの味わいを合わせようという試みも本格化してきたなという印象を受けました。結構なことだと思います」と期待している様子だ。
また、これからの季節におすすめの食べ合わせのヒントも教えてくれた。
「和膳は、マグロや中トロなど濃厚な味わいの刺身が合うと思いますが、夏といえば特に関西では、ハモが定番です。ハモをさっと湯引きして氷の上に乗せ、梅肉で食べるのですが、こういったあっさりとした、それでいて旨味が詰まっている料理と和膳も試してみたい」
夏はすぐそこ。これからの季節、和膳を色々な料理と試してみて、和食の新しい楽しみ方を探してみてはいかがだろうか。
【参考サイト】http://www.suntory.co.jp/beer/wazen/