医療ミステリーに分類される『バチスタ』シリーズであるが、『アリアドネの弾丸』は既得権益に固執する警察の闇を描く点が特徴である。死因究明のためにAi(死亡時画像診断Autopsy Imaging)を推進する主人公サイドと阻止しようとする警察の対立が描かれる。警察が悪玉になるが、警察側の人物は三者三様である。
警察の絶対正義という立場を固守するために情報の独占を目論む斑鳩芳正(高橋克典)警察庁長官官房情報統括室室長。間違ったDNA鑑定結果に基づいた冤罪事件への悔恨からAiの暴走を危惧する北山。凶暴性を秘めながらも北山には忠実な宇佐美。
これまでは斑鳩が黒幕のように演出されてきたが、今回は真相を追及する立場になっている。その限りで主人公サイドと共闘関係に立つが、「立場は違っても共通の目的のために手を携えよう」的な陳腐な展開には陥らない。白鳥圭輔(仲村トオル)は斑鳩に「本当は知っていたんじゃないの」と問いかけ、不信感を緩めない。
犯罪という一線を越えたか否かの点で斑鳩と北山・宇佐美のどちらが悪玉かは明白である。しかし、警察の正義を演出するために間違っても非を認めず、都合の悪い事実を認めない斑鳩の姿勢は受け入れなれない価値観である。斑鳩はAiへの懐疑論で警察と共同歩調をとった法医学者の笹井スミレ(小西真奈美)からも否定されている。
これに対して、冤罪事件への悔恨からAiの暴走を危惧する北山の思想は正論である。ドラマでもAiによる死因の見落としを描いている。この点では斑鳩よりも北山に共感できる。冤罪であることを認識している点も、島津吾郎(安田顕)の逮捕報道をぶつけて情報操作を目論む斑鳩よりも人間的に救いがある。
ところが、その北山も死の間際に「常に正しく、強く堂々と輝きながら、市民を守る。それが警察」と語った。これは斑鳩と同じ思想である。冤罪事件への悔恨も、社会からバッシングされる警察の姿を見ることが耐えられないという身勝手な発想からである。冤罪被害者に申し訳ないという気持ちは皆無である。
歪んだ思想に取りつかれている斑鳩や北山に対し、宇佐美には葛藤や悲哀が描かれた。警察官僚トリオも中で最も歯車として行動した宇佐美に最も人間的な葛藤や悲哀が描かれることは皮肉である。冷静に考えれば宇佐美の行動は理不尽であり、支持できる要素はない。
それでも福士誠治の演技には視聴者を感情移入させる迫力があった。前々クールの月9ドラマ『大切なことはすべて君が教えてくれた』での自信と理解力のあるヒロインの見合い相手と同一人物とは思えない演技であった。
(林田力)