時は1579年(天正7年)で、茶々も初も江もティーンエイジャーにもなっていない。それを宮沢りえ、水川あさみ、上野樹里が演じるのだから、実年齢とのギャップが大きい。そのため、上野樹里演じる江は天真爛漫で子供っぽく、あどけない。
2008年の大河ドラマ『篤姫』を主演した宮崎あおいも、ヒロインの一生涯を演じきるために声のトーンや表情を変えて、年を重ねていく演技をした。篤姫の場合は今和泉島津家の娘時代、薩摩藩主の幼女時代、将軍家の御台所時代、天璋院時代と社会的な立場が大きく変わっており、それに合わせた演技が年齢に応じた演技にも重なった。
これに対して江の場合は身分が厳格ではなく、純粋に年齢に応じた演技が求められる。現時点の江は同じく上野が主演した『のだめカンタービレ』の野田恵(のだめ)に近いものもあり、それほど意外感はない。成長した江の毅然とした演技が今から楽しみである。
江だけが父・浅井長政の死の真相を知らなかったという設定は、三姉妹の中で江のキャラクターを効果的に特徴付けている。茶々は長女らしく、落ち着いている。一般に淀殿には高慢でワガママでヒステリックという印象があり、どのような描かれ方になるか注目したい。茶々と比べて次女の初は感情をぶつけてくる。江にとっても、すぐ上の姉ということで、茶々よりも気安い関係である。初は浅井三姉妹の中で最も知名度が低いが、ドラマでは重視されそうである。
若い女性が中心になると戦国時代劇としての重みに欠けがちであるが、脇を固める市(鈴木保奈美)の強さ、家康(北大路欣也)の貫禄が深みを加え、安っぽさを回避している。そして現時点での実質的な主人公ともいうべき存在が織田信長(豊川悦司)である。2010年の大河ドラマ『龍馬伝』が岩崎弥太郎目線で坂本龍馬を描いたならば、『江』の冒頭は江の目線で信長に迫ろうとする。それによって革命的な指導者ゆえの孤独が浮き彫りになる。
第1回でスルーされたドクロの杯のエピソードも、今回は物語に即した解釈で描かれた。女性目線で明らかになる信長の哲学に期待したい。
(林田力)