怒羅権は東京都の江東区と江戸川区を縄張りとする中国残留孤児2、3世を中心としたグループだ。中国残留孤児帰国者は日本語が不自由なため授業に付いていけず、学校で差別を受けてイジメられていた。こうした境遇に置かれていた中国残留孤児2、3世が自然に集団化。江戸川区の葛西には中国残留孤児帰国者の一時入所施設「常盤寮」があったため、ここを本拠地として怒羅権は結成された。
自分は日本人なのか中国人なのか分からない…。怒羅権のメンバーは、ある意味“祖国”を持たざる民である。それだけに行動は凶暴で、構成員はナイフや青龍刀を持ち歩き、人を刺すことも躊躇(ちゅうちょ)しない。日本人に向けた怒りがグループの原動力なのだから、それも当然だろう。
現場の公園に駆け付けると、そこにはボコボコにされて意識不明になっていた後輩の姿が…。
相手の一味の中には光浩の同級生もいた。江戸川区をシメていた光浩にとって、怒羅権は相容れることのできない存在。その場でケリを着けるつもりでいた。しかし、相手に同級生がいるとなると話が変わってくる。この場は力に訴えることはせず、話し合いで決着を図った。後輩を引き取るかわり、同級生を見逃すことにしたのである。
後に同級生一味は警察に逮捕され、光浩の下にも警官が事情を聞きに来た。「知らねぇなぁ」。もちろん光浩は同級生が青龍刀を捨てた場所まで知っていたが、そう言ってしらを切った。警察相手に同級生との約束を守り通したのである。光浩の義理堅い一面だった。