かつてあった事件の裁判では、「あそこの病院で失明した人が何人かいる」と書き込んだ被告が結局、メールアドレス、名前を被害者に明かすハメになり、被害者との面談も余儀なくされた。つまりその気になれば削除掲示板などつかわなくても、相手は特定出来る、ということ。さらにこの裁判では、被告にIPアドレスの開示が命令されて、被告自らが勤めるライバル病院から書き込んだこともバレた。ちなみに、法的に責任が問われる「発信者」は会社、このケースではすなわち病院である。だから、所属病院にもあえなくバレて迷惑をかけるという、踏んだり蹴ったりの被告だった。
ところが、現在、ネットに悪口を書いた人を特定出来る会社があるようだ。いったいそんなことが出来るのか。聞いてみた。
「御社には、スレッドごとに削除するコースがあるんですが、どのようなものですか」
業者「書き込んで、書き込んで…」
「スレッドごと落とすということ?」
業者「はい」アナクロである。
「では、人権侵害に対し、どうやって相手を特定するんですか。裁判所命令がないとIPアドレスは入手できない…」
業者「特殊な方法でIPアドレスを入手します。それは、企業秘密です」
「そうしたら、相手を裁判で訴えるんですね」
業者「いえ違います。相手にIPアドレスを伝えるんですが。それで業務は完了です」
「相手の連絡先はわかるんですか。メールアドレスとか。」
業者「は…い」
まさかフシアナサン、じゃないだろうな、と思ったが、聞かなかった。それならそれで、相手もあせるのではあろうが…。
「で、法廷に出る、と」
業者「いえ、絶対に裁判はしません」
その後も業者はかたくなに法的解決を拒んだ。結局詳細は不明。
でも、こんな会社がほんとうにあったら、現代のヒーロー、といえそうだ。(了)