前埼玉西武ライオンズ・細川亨捕手(30)の福岡ソフトバンクホークス入団が正式に発表された。細川のホークス入りは来季のペナントレースにも影響は計り知れない。今季、112試合に出場した『正妻』がライバルチームに移籍したのである。西武投手陣のデータはもちろん、チームの守備に関する最高機密を流出させてしまった。見送った側の西武も守備のサインを変更し、対応してくるだろうが、今季、左膝の半月板損傷でシーズンを棒に振った23歳の(炭谷)銀仁朗がどこまでやれるか不安も残る。
「西武は基本的にFA権を行使した選手は引き止めないことになっています。FA宣言する直前まで、慰留交渉も行いましたが」(球界関係者)
細川は開幕3試合目(3月22日)に『退団』を考え始めたようである。
同日、細川はスタメンマスクを被っていた。しかし、西武先発の岸孝之(25)がロッテ打線に掴まり、3回5失点でKO。その際、細川も屈辱を味わった。
3回裏の西武攻撃中、渡辺久信監督(45)は細川に代打を送った。
バッテリーの交代に関する渡辺監督のコメントが残っていた。
「(ロッテ打線の放った)6安打のうち、5本がカウントを追い込んでからのもの」(共同通信など参考)
捕手の配球ミスであり、その叱責で途中交代させたというのだ。ミスはミス。しかし、正捕手のプライドも強い年長者として、打席にも立たせてもらえなかった途中交代は、衝撃的だった。
「フロント内にも『厳しすぎる』との指摘はありました。ミスはミスですが…」(前出・同)
細川は昨季、故障で46試合にしか出場していない。その遅れを取り戻そうと、今年はキャンプ中から張り切っていて、二番手捕手の銀仁朗がオープン戦で左膝を痛めたことで、存在感も増していった。しかし、
「渡辺監督は二軍指揮官のころから、銀仁朗を高く買っていました。かといって、渡辺監督がエコ贔屓をしたなんて話はありませんよ。しかし、開幕3試合目で途中交代されれば、細川は『俺はアテにされていない』『銀仁朗を育てようとしている』と疑心暗鬼になり、チームから必要とされていないと不安に思ったようです」(同)
その銀仁朗がチームに帰って来たのは、クライマックスシリーズ直前合宿だった。10月9、10日のクライマックスシリーズ・ファーストステージだが、細川はその銀仁朗(9日)と上本達之(30=10日)に試合途中で交代させられている。
こうした起用法が退団を決意させたというわけだ。
「ソフトバンクの秋山(幸二)監督は、西武関係者と今も交遊があり、細川とも家族ぐるみの付き合いでした」(他球団職員)
ホークス移籍は自然の流れでもあったようだ。同じく、開幕3試合目で屈辱的な途中交代を喫した岸は、2度目の契約更改交渉を行い(11月27日)、現状維持の1億2000万円プラス出来高(推定)でサインした。会見で細川の移籍について質問されると、少し考えてからこう答えている。
「自分のことをいろいろ知っていると思うけど、それ以上に成長できれば…」
その表情は複雑だった。西武はソフトバンクから解雇通告を受けた荒川雄太(23)を獲得した。細川のソフトバンク移籍を想定しての捕手補強である。
渡辺監督の采配は間違っていない。しかし、野球選手に限らず、プロアスリートはプライドが高い。アテにされているのかどうか? たったひと言で「モチベーションが変わる」ということを再認識させられた移籍劇である。