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斎藤佑樹も澤村も勝てない ハマの新人が「最多登板記録」を更新

 福岡ソフトバンクホークスは優勝マジックナンバーを点灯させ、セ・リーグの首位・東京ヤクルトスワローズも祝勝会の会場手配を始めた。球界の秋の光景である。そんな終盤に差し掛かったペナントレースのなかで、『新人投手の個人記録』が密かに注目されてきた−−。

 9月17日、ヤクルト対横浜戦(神宮球場)。横浜先発のベテラン・三浦大輔が7回途中でマウンドを譲った。2番手に新人左腕・大原慎司(26)がコールされた。レフトスタンドの一角に追いやられた横浜ファンが“祝福の拍手”を送った。この日の登板が今季59試合目−−。球団最多登板記録(新人)が塗り替えられたのである。しかし、大原はヤクルト・青木にいきなり四球を与えてしまう。すぐに尾花夫監督(54)は立ち上がり、投手交代をコールした。「対戦打者1人、投球数7、四球1、3分の0イニング」。始めからワンポイントの予定だったのかもしれないが、53年ぶりに更新された記録の内訳としては、寂しい限りである…。
 勝利に徹した尾花監督の采配は、間違っていない(2対2引き分け)。セットアッパーとは、そういう宿命である。私事になるが、元西武投手・三井浩二氏の言葉を思い出した。今年1月、拙著の取材で話を伺ったのだが、三井氏は先発だけではなく、リリーバーとしても、長く西武ブルペンを支えてきた。
 「ストッパーは勝ち試合にしか登板しませんが、セットアッパーは勝敗に関係なく、『行け』と言われたら投げなければならない。試合展開を見ながら、毎日肩を作り、こちらのモチベーションが高まって、『よし、行くぞ!』って思ったときに、ベンチの駆け引きで『ちょっと待て』と言われたり…」
 リリーバーの職責、自身の立場をそう説明してくれた。勝敗も、セーブポイントも付かない。救援投手に『ホールドポイント』の記録が正式に設けられたのは05年以降である。

 84年、阪神・福間納がシーズン77試合登板のセ・リーグ記録を作っている(当時)。「あと1試合」で往年の大投手・稲尾和久の持つ日本記録に並べたが、当時を知る関係者や先輩ライターたちによれば、「優勝争いに加わっていないチームから、タイ記録、新記録が出るのはいかがなものか?」なる批判もあり、世論を恐れた首脳陣が故意に福間を登板させなかったという。87年の巨人も鹿取義隆を63試合に登板させている。本人は登板過多に対する抵抗感は全くなかったらしいが、酷使の代名詞のようにも取り上げられた。

 当時と比べ、セットアッパーの地位は高まった。新人の球団最多登板記録を塗り替えた大原は、新人王候補の1人にも挙げられているが、澤村拓一(巨人)、藤村大介(同)、福井優也(広島)などライバルたちの成績を考えると、タイトル奪取は厳しいと言わざるを得ない。また、最多登板数、ホールドポイントでも、中日・浅尾拓也が群を抜いており、こちらも追い付けない可能性の方が高い。
 「抑えたり打たれたり、1年目でいろいろな経験ができ、感謝しています」
 翌朝のスポーツメディアは記録更新こそ伝えていたが、数行程度だった。大原もあまり多くを語ろうとしなかったようである。先人たちを見れば分かる通り、セットアッパーとは精神的にも強くなければ務まらない。タイトルとは縁遠いところにいるのかもしれないが、大原は澤村たちよりも中身の濃いプロ生活を送っているはずだ。(一部敬称略/スポーツライター・美山和也)

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