北朝鮮は5日のミサイル発射からわずか数時間後、軌道に乗った衛星が発信する金正日総書記を称える歌をキャッチしたとして「実験成功」とした。総務省や米国なども周波数を合わせて連日受信を試みているが、8日朝現在までに確認できず、実験失敗だったと結論付けている。
北朝鮮事情に詳しい関係者は「何をもって成功とするかは実験の狙いにもよるだろう。しかし北朝鮮は約1カ月半前、実験を繰り返すともとれる声明を発表しており、再発射の可能性がゼロとはいえない」と指摘する。
事実、朝鮮宇宙空間技術委員会のスポークスマンは2月24日、次のような談話を発表している。
「われわれは1998年に光明星1号(※テポドン1号とみられる)を打ち上げ、宇宙軌道へ進入させる大きな成果を挙げた。その後10年間、国の宇宙科学技術をさらに高い水準に引き上げるため、闘争を力強く推し進め、衛星発射分野で飛躍的な発展を成し遂げた。国家宇宙開発展望計画に基づき、一段階で今後数年のうちに国の経済発展に必須の通信、資源探査、気象予報などのための実用衛星を打ち上げ、その運営を正常化することを予見している」
同委は“北朝鮮の科学技術省”ともいうべき科学技術部門の最高機関に当たる。独特の言い回しのため分かりにくいが、前出の関係者はこの談話について「分かりやすく言えば、数年以内に経済発展に寄与する科学技術を確立するということ。北朝鮮は、気象予報技術の遅れから農作物が洪水に見舞われて大打撃を受けるなど実害を被ってきた。これを短期間で打破するためとの大義名分で“人工衛星打ち上げ”を繰り返すという先手を打っている」と読み解く。
北朝鮮は「強盛大国」をスローガンに、2010年までに軍備増強や経済復興を成し遂げることを最大目標としている。中でも喫緊の課題は経済復興とされる。同国の貿易事情を取材したジャーナリストによれば、現在の外貨獲得の主力は鉱物資源輸出。ところが、どうも展望が悪いという。
「おもに鉱物を中国に売っているんですが、取引価格が下がっていて思うような外貨を得られていません。そうした北朝鮮の国内事情から、今回の発射実験を“ミサイル・ビジネス”のデモンストレーションとみる向きもあります」(同ジャーナリスト)
韓国軍関係者によると、米韓情報当局は今回発射された「テポドン2」の3段式改造型は舞水端里の発射施設から約3000〜4000キロの太平洋上に落下したと推定。2段目と3段目の切り離しに失敗したもようで、成功すればもっと射程は伸びたとみられる。
それでも98年のテポドン1号の射程は約1600キロだったから約10年で飛距離は倍増。イランやパキスタン、シリアなどの中東諸国に技術を売り込むことで80年代には年間5〜10億ドル単位を稼いだ実績もある。今回の発射がデモンストレーションとしては失敗だった場合、ミサイルビジネスで外貨を獲得するためにはさらなる実験が必要になってくるだろう。
そうなると、いつごろ再発射のXデーが訪れる可能性があるのか。前出の北朝鮮事情に詳しい関係者は「まずは9日に開かれる最高人民会議第12期第1回会議で後継者の発表があるかどうか。ミサイル発射はこの新体制への“祝砲”か、もしくは後継者決定のそれかとみられていた。決定がずれ込むようならば、後継者問題の決着がついたときが再発射のXデーになるだろう」と話す。
いずれにせよ、いちいち頭上にミサイルを打ち上げられてはたまったものではない。