「アスレチックスはア・リーグ西部地区の首位。レンジャーズが逆転優勝するには、ダルビッシュのア軍への苦手意識を克服してもらわなければなりません」(現地特派記者の1人)
そのキーマンとなりそうなのが、クリス・ヒメネス捕手(31)だ。
昨年9月4日、ダルビッシュは正捕手だったA・J・ピアジンスキー(現レッドソックス)とマウンド上で口論になったこともあった。奇しくも、その試合もアスレチックス戦であり、以後、ロン・ワシントン監督はダルビッシュの投げる日は2番手のジョバニー・ソトをスタメンで使ってきた。今季もそのソトが“ダルビッシュの専属捕手”を務める予定だったが、故障で長期欠場…。新加入のロビンソン・チリノスと組んでみたものの、呼吸が合わなかった。白羽の矢が立てられたのが、このヒメネスなのである。
インディアンス、マリナーズ、レイズを渡り歩いたが、目立った実績はない。今春のキャンプをアスレックスで迎え、開幕前にレンジャーズに移籍してきた経緯は既報通りだが、ヒメネスのリードには、こんな特徴も見られる。
「投手をいかに気持ちよく投げさせるかが、僕の信条」−−。
彼のコメントは興味深い。
日本ハム時代、ダルビッシュは鶴岡慎也(33/現ソフトバンク)とのバッテリーを好んでいた。今もそうだが、日本ハムはドラフト1位指名した大野奨太(27)を正捕手に押し上げたいと思ってきた。ダルビッシュとは“同級生”でもある。東洋大学で4季連続ベストナインにも選ばれたそのセンスにダルビッシュも一目置いていたが、バッテリーとしての呼吸は、鶴岡の方が合った。
ヒメネスの捕手信条で思い出されるのが、鶴岡と大野の違いだ。大野は学生時代からチームを牽引してきた。だから、投手を引っ張ろうとし、リードも自ずと「オレに付いて来い」になる。一方の鶴岡は、投手の投げたいと思っている球種を“当てる”配球だ。平たく言えば、味方投手の性格まで把握し、
「このボール(球種)が投げたいんだろ? ホラ、当たった」
と配球を組み立てていく。マウンドで気持ち良く、ノセていくタイプなのだ。
鶴岡と大野はどちらも好捕手だが、ダルビッシュは鶴岡やヒメネスのタイプが好きなのである。
パ・リーグ出身のプロ野球解説が日本ハムの捕手事情をこう解説する。
「大野は、鶴岡がいた昨季までのプロ5年間で423試合にしか出ていない。今季から選手会長に選ばれたように人望もある。日本ハムがオフに巨人から市川をトレード補強しなければならなかったのは、大野の経験不足を懸念したからです。さほど肩の強くない鶴岡が重宝されてきたのはダルビッシュが絶大な信頼を置いていたからで、それが現日本ハム投手に引き継がれたと言っていい」
米国人ライターがこう続ける。
「メジャーでは先発投手に応じて、スタメン捕手を入れ換えることは好まれません。レンジャーズではダルビッシュがそうさせたとも言えるでしょう」
ヒメネスは打撃も好調だ。ダルビッシュは「会った瞬間に相性がよいと分かった」とヒネメスを称賛していたが、チームの正捕手はJ・P・アレンシビアと認識されている。ヒメネスのバットの勢いが止まったとき、厄介なことにならなければいいのだが…。