数としては少数派だが、芸能人は何も芸能事務所に所属しているのが絶対ではない。
ひとつはフリーランスという働き方だ。オファーを受ける、断る、営業をかける、スケジュール調整など全て自分でこなすこのやり方は、2018年に亡くなった樹木希林さんが用いていた手法である。最近では、2018年に満島ひかりも所属事務所の「ユマニテ」を退所し、フリーランスになった。一部では2016年からフリーランスとなった俳優・森山未來の影響ではないかとされている。満島はフリーになった後、2019年も舞台「お気に召すまま」や「キリン一番搾り」のCMなどに出演しており、“干されている”様子はない。
また、芸能事務所というものがほとんどない海外では、俳優が近くに「エージェント」という専門業者を置いていることが多い。仕事の交渉を任されるエージェントにとっては、仕事を発注する制作サイドと受注する芸能人、どちらもクライアント。芸能人の立場が弱くなりにくいというわけだ。今のところこの仕組みを使っている日本の有名人はいないようだが、今後この手法が使われてもおかしくはない。
そして、増え始めているのは個人事務所の設立である。フリーランスと違うのは自身が事務所の社長、つまり経営者になり、所属タレントを抱えることもあるという点だろう。節税のために大手事務所に入りながら個人事務所を経営しているケースも多いが、株式会社LDH JAPANを創業した元EXILEのHIRO(現会長)、「のん」こと能年玲奈、石田ゆり子らは事務所のかけ持ちはせずに自分の事務所を経営している。
一方で、芸能人を事務所に所属する“労働者”とみなすなら、その立場で動こうとする者もいる。小栗旬は以前から俳優の“労働組合”の発足を目指すと公言している。藤原竜也、山田孝之らと仕事でのトラブルやけが、給料の未払いなどについて、芸能人が相談できる場所を組織の中に作りたいのだという。しかし芸能人が事務所に雇用される立場にないと労働組合設立は難しい。芸能人が事務所と業務委託契約を結ぶ個人事業主であるなら、それはかなわぬ夢となるかもしれない。
何かあった時にタレントを守ってくれる事務所――そうであれば事務所に所属するのが安心なのだろう。しかしこれだけ所属タレントとの問題が続く今、芸能人も働き方を見直す必要が出てきそうだ。