『かわいそうだね?』(綿矢りさ/文藝春秋 1365円)
大江健三郎賞は2006年に創設された。選考はこのノーベル賞作家一人が行う。賞金は出ないが外国語翻訳、世界での出版を約束されるので、作家にとってはかなり気になる賞に違いない。昨年は星野智幸『俺俺』が獲得。そして今年は4月に綿矢りさ『かわいそうだね?』が第6回目の受賞作に決まった。刊行が昨年なのは、前年1〜12月に出た作品を選考対象にしているからだ。
綿矢りさの作家デビューは'01年だが、やはり'04年『蹴りたい背中』が芥川賞を得たことで、一気に注目度が高まったのだった。19歳という若さで、しかも可憐な風貌をした女性が、言わば日本一の座を獲得したのだから多くの人が驚いた。
しかし作風は決して可憐とは言えなく、若い女性ファンのみならず、プロの評論家たちからも高い評価を受けている。
本書は2作の短篇が収められている。いずれも女性の複雑でおぞましいとも言える内面をブラックなムードで描いている。表題作の主人公はデパートで接客をしている28歳だ。付き合っている彼氏が、元カノを自分の部屋に居候させたいと突然宣言した。次の就職先が決まるまで援助したいのだという。明らかに奇妙な三角関係。彼氏の気持ちが元カノに戻らないことを願うが、不安は消えない…。
女性ならではの心の揺れを微細に描く筆致が素晴らしい。これこそが小説だ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『平凡パンチ '70 TheNude 高橋惠子 ひし美ゆり子 東てる美』(マガジンハウス・2625円)
伝説の雑誌『平凡パンチ』の誌面を飾った幻のヌードグラビアをデジタル再編集した永久保存版写真集。登場するのは表題の3人で、今ほど洗練されていなかったこの時代の裸体が、なぜか神々しく実に美しい。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
原発事故から1年−−。再稼働を許すか否か、議論は平行線を続けたままだ。
日本人が原発をどう捉えるか、それぞれが考えてみようというとき、手頃と思われるのが、この週刊朝日臨時増刊『朝日ジャーナルわたしたちと原発』(500円/朝日新聞出版)。
セシウムがどれだけ拡散しているかを独自に検証した、地道な取材企画にまず注目。市販されている放射能測定キットを使い、2週間にわたって神奈川から宮城までの住宅水道水や土壌・食品を調査している。
各県任意のある地点1カ所を測定しただけなのでサンプルとしては少ない。結果も地域によってバラツキがあり、これだけをもってセシウム汚染状況を断言できないレポートだ。だが、本来政府が行うべきこうした調査を、マスコミがせざるを得ないという現状は物語っており、それこそがこの臨時増刊の提言だろう。
テレビでよく聞く「原子力村」の実態をわかりやすく解説した記事も、一読の価値がある。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意