「僕らは福良さんに続けてほしかった」
球団関係者に話を聞くと口を揃えたかのように、みんな福良監督の退任を惜しんでいた。しかし、球団に辞意を表明した福良監督の意思は最後まで変わらなかったという。
「勝負の世界ですからね。いくら若手が育っていると言っても、やっぱり勝たなきゃいけないですからこの世界は。それがいちばんです」
最終戦が行われた5日の試合前のシーズン総括会見で、球団からの続投要請に対して質問されるとこのように答えていた。
「思い出というかもう…負けた試合しか出てこないですね。悔しい試合というか。そういう試合展開が多かっただけにですね」
と監督生活を振り返ると、最後の試合については…
「自分のことはどうでもいいので、(小谷野)栄一はしっかりと送り出したいですね」
と、この日引退する愛弟子を気遣った。そして、小谷野の引退セレモニーが試合後に行われる。福良監督が花束を持って、小谷野とお互いに泣きながら抱き合う姿は、満員御礼の京セラドーム全体が感動に包まれた。
セレモニー終了後、最後の監督囲み会見が予定されていたが、会見場に行くと中止が伝えられた…しかし、その直後に福良監督が現れ、最後の職務を務めたのだ。
福良監督は「(満員御礼になったのは)栄一の引退があったからやないですか。栄一のことは…話せないですね」と声を震わせ、「よく頑張った!栄一」と言うと涙が溢れた。最後の打席は「もう見れないですよね」と語り、「恩師である福良さんと一緒にユニフォームが脱げて幸せ」という小谷野に対して、「もう少しやらせてあげたかった」と愛弟子の引退に悔しさをにじませていた。チームに関しては、「今年良かった連中は来年頑張ってくれたらいい」と指揮官として最後のコメントを残すと会見は終了した。
文字に起こすと言葉足らずに見えたり、他人事に見えてしまいファンからは誤解を招くことも多かったが、小谷野のセレモニーで福良監督の人間味がファンにも伝わったのではないだろうか。今後、もしまた、ユニフォームに袖を通す日が来たら、ファンの見方も変わるだろう。
最後まで職務を全うした福良監督の野球をベースに、西村新監督がチームを日本一に導いてくれると信じたい。
取材・文・写真 / どら増田