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次世代再生医療の“鍵”「ポリリン酸」の発毛効果(2)

 そこで登場するのが、ポリリン酸だ。元北海道大学大学院助教授で日本における生体内ポリリン酸研究の第一人者である柴肇一医学博士は、こう説明してくれた。
 「ポリリン酸は、リン酸が3個以上鎖状に結合した高分子をいい、バクテリアから人間を含む哺乳類まですべての生物に存在する生体分子です。中鎖分割ポリリン酸には、発毛命令を伝達するFGFを安定化する効果や、毛乳頭細胞を再生する効果があることが明らかになりました。つまり、常に発毛命令を毛乳頭に出し続けることが期待でき、しかも毛乳頭細胞を増殖することが可能です」

 ポリリン酸は、酵母やビールなどに含まれており、知らず知らずのうちに食べているもの。食品添加物や化粧品にも使われているが、経験的に活用されてきただけで、どんな効果があるのかを詳しく研究した人はいなかった。
 柴博士の研究の意義は、多様な長さのものが存在するポリリン酸の中で、生体に有効なポリリン酸を取り出してみせたことにある。長鎖、中鎖、短鎖というある特定の長さに分割したポリリン酸が、それぞれ特徴的な効果を持つことを発見。そのうち毛乳頭に働きかける効果があるのは、リン酸が60個以上つながった中鎖および長鎖分割ポリリン酸だった。
 「これは、育毛剤として実用化できるかもしれない」

 だが、そこにはクリアしなければいけない問題がある。ポリリン酸は、脂に溶けづらい性質があるため、頭皮の脂が邪魔をして、ポリリン酸が頭皮の奥の毛乳頭までなかなか浸透しないという点だ。
 頭髪をシャンプーしてよく洗ったうえで、ポリリン酸を頭皮に塗ればいいのだが、化学的にもっと浸透率を高める方法はないかと考えた。
 「思いついたのは、酵母の中にあるポリリン酸を活用できないかということ。酵母が作るポリリン酸は、顆粒状で頭皮の脂にもなじみやすく、粒の大きさは、10〜500ナノ(1ナノ=100万分の1ミリ)と微粒になるので、従来の約2倍の浸透率があり、また、毛乳頭細胞の活性化は約8.4倍という結果が得られました。ポリリン酸を用いた育毛剤は、女性の場合や円形脱毛症にも効果が期待できます。これはもともと人の体内にある物質ですから、安全性についてもなんら問題はありません」(柴博士)

 最後に、博士自身のヘアケアついて聞いてみた。
 「私の父は、40歳代でツルツルでしたので、私も実験段階からポリリン酸を塗っています。やはり早めの対策が必要だと思います」

 最新の研究によれば、ポリリン酸には、骨や血管の再生にも効果があることがわかっている。ポリリン酸は、次世代再生医療の鍵を握る物質といっても過言ではない。

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