あるクラスで遺体の解剖実習が行われる事になった。
「おい、今日はいよいよ解剖実習だせ」
「なんだが気分がのらないよね」
「俺って実は血ってだめなんだよな」
医学生とはいえ、今回が初めての解剖実習である。朝から、皆一様に緊張していた。中には顔色が変わっている生徒さえいる。
「なんだい、みんな、お通夜みたいにさ〜」
「おっA君、随分と張り切ってるな〜」
「当たり前じゃん、いよいよ俺達、本格的に医者になるわけだし」
クラスのお調子者A君だけ、妙にはしゃいでいた。どうやら、日頃からクラスのムードメーカーであった彼は仲間の緊張をほぐす為に、冗談を連発していたのだ。
(仲間の緊張をほぐす為とは言え、なかなかA君のやつ気が利くな)
仲間たちは、A君の気遣いに感謝していたという。
ところが、実習も後半に入った時、異変が起こった。突然A君が、メスを持ち出すと、遺体の耳を切り取ったのだ。
「うひゃうひゃうひゃ、これからおもしろい事やるよ」
A君は虚ろな目で、へらへら笑いながら、血だらけの耳を壁に貼り付けてこう言った。
「壁に耳あり…なーんちって、ひゃひゃひゃ」
唖然とする仲間を尻目にA君は、奇怪な行動を続けた。今度は目玉をえぐり、ドアにあてるとこう言ったのだ。
「障子に目あり!!ひゃひゃひゃ」
「おい!やめろ!誰かこいつをとめろ!」
止めにかかる数人をふりほどくと、A君は、誇らしげに奇妙な行動を続けた。そして、更に遺体の口を引き裂くと、
「死人に口なし」
最後に遺体の手足を切断し、
「手も足も出ず」
とやってしまったのだ。
A君は全身血まみれで、惚けたように笑っている。極度の緊張の為、精神的に堪えられなくなり、A君はおかしくなってしまったのだ。
その後、彼は退学したという。
(監修:山口敏太郎事務所)