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2016年夏の甲子園大会 「スーパー一年生」による夏の継承劇

 県予選14本塁打、65得点、チーム打率3割6分4厘と圧倒的な攻撃力で、横浜高校は「3年ぶり16回目」の夏の甲子園の切符を手にした。プロ注目の右腕、藤平尚真投手もいい。しかし、この部員数約80人を誇る名門校は、県予選を戦うベンチ入り20人のなかに、4人の一年生を登録している。その一人である万波中正選手は、県予選3回戦、センターバックスクリーンへの直撃弾を放ち、全国の高校野球ファンからも一目置かれるようになった。今夏は、強豪各校にそんな『スーパー一年生』が多く見られる。
 そのスーパー一年生が集大成となる三年生夏、夏の甲子園大会は『第100回』を迎える。それはそれで楽しみではあるが、名門・PL学園も「活動休止」とならなければ、スーパー一年生による“捲土重来”も見られたかもしれない。

 大阪府の強豪校、大阪桐蔭にも2人のスーパー一年生が加わった。一人は中学時代に146キロをマークした根尾昂投手、もう一人は地元大阪出身の藤原恭大外野手(左投左打)だ。藤原も府大会で公式戦デビューを果たしている。同校は中村剛也、西岡剛、中田翔、森友哉などのスラッガーをプロに送り込んでいるが、「打撃センスは中田、森以上かもしれない」と、すでにプロのスカウトが熱い視線を送っている。
 芝生上での50メートル走を計ったら、5秒9。それも、アップシューズで−−。そんな逸話も聞かされた。その真偽はともかく、走攻守全てが揃った外野手であることは間違いない。その藤原の第一志望校は、PL学園だったのだ。藤原の兄は“PL最後の球児”、62期生・藤原海成外野手だ。藤原海成は右肩を故障しつつも出場し、その奮闘が報じられている。
 「弟・恭大は2歳上の兄の影響で野球を始め、兄と一緒にプレーしたいと思っていた」
 この情報は弟・恭大が所属した中学硬式野球クラブのスタッフから聞かされたものだ。

 PL学園は2015年度から新入部員を募集しない旨を告知した。したがって、二年生以下の野球部員はいないため、現三年生が出場できる今夏の公式戦終了をもって、事実上の廃部となった。春夏通算37回の甲子園出場を誇る名門野球部の消滅を惜しむ声は今も止まない。弟・恭大は影響力もあり、「一緒に甲子園を目指したい」と思う仲間も少なくなかった。また、現代っ子気質で、部員数の多い強豪校よりも、レギュラー狙いで、低迷している学校や公立校に進む球児も多い。
 一年生から大舞台を経験した“天才”は過去にもいた。しかし、近年では一年夏からレギュラー番号を背負う天才も珍しくなくなった。大阪府代表の座を勝ち取った履正社にもベンチ入りを果たした一年生が3人いた(府大会)。

 通算17回の甲子園出場を果たした名将・上甲正典氏(故人)が、かつてこんな話をされていた。
 「抜きん出た才能を持った一年生を育てるのがいちばん難しいんだよ。彼らが練習で70%の力しか出さなかったとしても、(指導者は)見抜けないよ。練習は全力でやらないと巧くならない。かといって、試合で一度痛い目に遭わせてそこから這い上がってくる指導をしようとしても、高校野球は実質2年半しかないから、時間が足らない。要は、本人に『上』を目指す気持ちがあるのかないのか…」
 甲子園の土を踏んだ一年生もいれば、ベンチでチャンスを待つ一年生もいた。地方大会で散った一年生もいる。今夏は『100回大会』につながる楽しみも秘めている。(スポーツライター・美山和也)

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