「前向きに交渉を継続している」
そう答えた後、さらにこう訴えた。
「準決勝と決勝の限定参加などの代案を提示している。(野球の復活は)各国共通の課題」
それから2か月ほどが経過したが、大リーグ機構(MLB)から「限定参加」に関するコメントは聞かれない。メジャーリーグが非協力的な理由は、夏季の書き入れ時に主力選手を派遣したくないからだ。また、アメリカには「オリンピックは欧州の大会」との意識もある。
国際野球連盟(IBAF)と国際ソフトボール連盟(ISF)が統合組織・WBSCになる前のことだ。野球・ソフトボールがオリンピックの公式種目として最後の大会となったのは、2008年の北京五輪だった。その後、復活を目指す委員会も両連盟内で結成されたが、IBAFは11年1月にIOCからの補助金を失い、『IBAFワールドカップ』などの国際大会の継続さえ厳しくなってしまった。窮地に立たされたIBAFは大リーグ機構にSOSを送ったのである。そのとき、MLBが援助する交換条件として提示してきたのが、自分たちとMLB選手会が立ち上げた『ワールドベースボールクラシック=WBC』を「世界一を決める選手権として正式に認めること」だった。
IBAFワールドカップを廃止したIBAFは、新たに『プレミア12』を立ち上げた。昨秋の第一回大会だが、アメリカは参加こそしたものの、トップ選手を招集していない。
こうした過去の経緯を考えると、MLBがフラッカリ会長の言う「限定参加案」に協力するかどうかも疑問だ。もっとも、MLBは30球団の経営陣の意見をまとめられず、WBCでも“ドリームチーム”を結成したことはないが…。
また、森会長を始めとする組織委員会要人の発言だが、こうも解釈できる。野球・ソフト側との間に出来た『亀裂』を修復したいのではないか、と…。NPB、大学、高校、社会人などの国内野球組織は、2020年のオリンピックイヤーに神宮球場が使えなくなった一件について、カチンと来ている。一方的に、それも、直接ではなく、神宮球場を介して組織委の長期借用を知らされた経緯には、本当に怒っていた。
「プロ野球12球団も対策を検討しています。野球・ソフトボールが追加種目に当確することを目指していますが、その際は横浜スタジアムか、QVCマリンが会場になる可能性もあります。本拠地球場を神宮球場も含め3つも使えないとなれば、ペナントレースの中断も真剣に考えなければなりません」(球界関係者)
プロ野球、各大学リーグ、高校野球の東西の東京都大会の舞台となる神宮球場は稼働率が高く、ザッと計算しただけでも、プロアマ合わせて約300試合ができないことになる。深刻な事態である。野球・ソフトボール側からすれば、「組織委も対応策を一緒に考えてくれ!」というのが、ホンネではないだろうか。
2016年5月時点での情報だが、高校野球の関係者によれば、「夏の甲子園・東京都予選の一部を神奈川、埼玉、千葉に持っていく案もないわけではない」という。そうならないよう、日本高等学校野球連盟(高野連)は大学、社会人、プロ野球にも協力を求め、調整しているのである。この情報が現実となってしまったら、組織委は各大学リーグの舞台を取り上げ、かつ高校球児にまで爪痕を残すことになる。
「東京五輪の組織委はエンブレム問題、新国立競技場のトラブルに直面し、招致活動を巡る疑惑まで海外メディアに報じられました。ここで国内での人気が高い野球・ソフトが落選したとなれば、組織委はさらに強い反発を買うことになるでしょう」(政治担当記者)
森会長はTBS系のニュース番組に出演し、東京五輪の大会経費算定について「計算に無理があった」と答えている。立候補した当初の大会運営費は3000億円だったが、5000億円は必要になるという。
五輪とカネにまつわる野球の話をさらにすれば、一時期、サッカーくじのプロ野球版も検討されていた。政府の一方的な“提案”として…。野球・ソフトが当選すれば、チケットは確実にさばける。一ファンとして、オリンピックで野球・ソフトが見たい。しかし、プロ野球が組織委に振り回されている気がしないでもしない。(了/スポーツライター・美山和也)
*写真イメージ