『大尾行』(両角長彦/光文社 1575円)
本好きであれば、これから期待したい作家、ちょっと気になる作家を大切にしたい、という気持ちは誰しも湧くのではなかろうか。まだ日本中の誰もが知っている存在になってはいないけれど、もしかしたら、いずれ多くの人に読まれるようになるかもしれない筆力を感じさせる。こういう小説家を探して読むというのは、なかなか楽しい。
本書の作者は2009年に『ラガド 煉獄の教室』で日本ミステリー文学大賞新人賞を得てデビューした。受賞後に初めて出す第1作が本書である。主人公は大手の私立探偵会社に勤める35歳・村川だ。大手ならではのシステムが確立されているので、たった一人でターゲットを尾行、張り込みをするなどはしない。複数の社員が協力し合い、効率的に仕事をこなす。だが、社長から新しく受けた任務は難題だ。製薬会社に執拗に接近する女。何人もの探偵が尾行しても必ずまかれてしまう。この一筋縄ではいかないターゲットを完璧に尾行して欲しいという命令なのだが…。
小説家にとって、狂気は必要だ。複数の人物を頭の中で組み立て動かす能力は、正気のままだと育まれない。本書の作者はハードボイルド・タッチの文体と、この狂った気分を兼ね備えている。主人公の探偵は物語の中でどうなっていくのか。悪夢のようなストーリー展開に接したとき、読者はこの作家を好きになるだろう。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『妻と別れたい男たち』(三浦展/集英社新書・756円)
首都圏在住男性2000人以上への調査を基に、ベストセラー『下流社会』の著者が、中高年男性の「リアルな心象」に迫る。男たちは何に疲れ、何を求め、何から逃れようとしているのか? 世の男たちの“離婚したい願望”が解き明かされる衝撃の1冊。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
ロンドンオリンピック開幕が近づいてきた。開会式は7月28日の午前4時半〜(以下、全て日本時間)。開会式に先立つ26日午前1時から、早くも注目のなでしこジャパン初戦(対カナダ)がキックオフ。
ということで今回は『ロンドン五輪テレビ観戦完全ガイド』(ベースボール・マガジン社/980円)をご紹介。水泳・北島康介、体操・内村航平ら金メダル候補の特集記事をはじめ、何より重宝しそうなのが巻末に掲載された詳細な放送日程だ。
順調に行けば、北島選手の100メートル平泳ぎ決勝は7月30日午前4時過ぎ、体操の男子団体決勝は8月1日の0時半〜。英国との時差の関係で決勝の大半が深夜〜未明に行われる。寝不足の日々が続きそうだ。
お色気記事も取り上げている。女性美人アスリートのトレカ特集だ。体操・田中理恵、バドミントン・潮田玲子らのお宝トレカが紹介されており、これが太ももムッチリのセクシーなカットばかり。むしろ、こっちのほうが楽しいかも?
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意