試合を見ていても、オカダ・カズチカとIWGPヘビー級王座を争っていた数年前に比べると程遠いコンディション。低迷期の新日本を支え続けてきた代償がここに来て肉体的に影響が出ているのは間違いないだろう。しかし、そんな満身創痍でボロボロになっても、棚橋は新日本の“真ん中”に戻ることを諦めていない。1.4ドーム大会では試合順が後ろから3つ目に“降格”したが、これが悔しくて仕方なかったようだ。
「試合順っていうのは、レスラーにとってものすごく大切なものなので、一つでも上の試合で組まれるように、これからやっていきます」
「“真ん中に戻る”というのは、再びメインに戻るということ。話題の中心になりたい。ぶっちゃけ言うと、チヤホヤされたい」
「悔しーい! 悔しい! 俺がメインの時にはこれだけ呼べなかったんでね。『悔しい』しか言葉がないです。俺も4万人集めたいです」
こうして素直な気持ちを口に出すのも棚橋の魅力なのだが、今でも根強い棚橋ファンの気持ちをさらに超える悔しさを本人が持っているのは、ファンにとってまだ救いだと思う。
「原因は分かってますから。俺自身にありますから」
そう語ると、「ケニー(オメガ)対(クリス)ジェリコが気になるんで」と記念撮影もそこそこに、足を引きずりながらインタビュールームを後にした。
そして、翌5日の後楽園ホール大会。“難敵”鈴木みのるの次なる標的として、目をつけられてしまった。1.4ドーム大会では後藤洋央紀に敗れ、NEVER無差別級王座を明け渡したことだけではなく、敗者髪切りルールに則り自ら頭にバリカンを入れて丸坊主になったみのるは、既に次の標的を棚橋と定めていたのかもしれない。1.5後楽園大会では8人タッグマッチにもかかわらず、棚橋一本に狙いを定め、ただでさえダメージが深い右ヒザを得意の関節技と椅子攻撃で徹底破壊。
「タナハシー! 次の標的はお前だ!」とせせら笑うみのるに対して、棚橋は「次は俺か…。気付くのが遅れたよ」と声を振り絞るのが精いっぱいだった。これを受けて1.27北海きたえーる大会でのシングル対決が決定。新日本の王座総取りを掲げているみのるの思惑通り、インターコンチ王座も懸けられた。
昨年も2.5きたえーる大会のメインに出場し、オカダのIWGPヘビー級王座に挑戦したみのるだが、敗れはしたものの、あまりにも冷徹な関節攻撃に札幌のファンが凍りつき、かつてのパンクラスの会場を思い出すような“シーン現象”を現在の新日本の会場で生み出した。当時のオカダと今の棚橋ではコンディションの差に開きがかなりあるので、今年も“シーン現象”が起こるようなことがあれば、棚橋の意志とは関係なく、レフェリーやドクターが試合を止めてしまう可能性もないとは言えない。みのるが右ヒザを中心に棚橋の負傷箇所を攻めて来るのは想定内だが、棚橋には最後まで会場のファンが希望を持てるような試合をすることで、“シーン現象”を覆してもらいたい。
札幌は棚橋にとって、2006年7月に初めてIWGPヘビー級王座を獲得(会場は月寒グリーンドーム)した思い出の地。ここで負けるわけにはいかないのだ。
取材・文 / どら増田
カメラ / 萩原孝弘