代表質問で小沢氏が“所信表明”する作戦は、ある意味大人の対応だった。麻生氏が9月29日の所信表明で民主党に売ったケンカを受け流し、クールに切り返した。
ところが、与野党党首攻防の第1ラウンドを伝えたテレビのニュース番組では、麻生氏が「私がたずねたいのは賛否だ」などと声高に小沢氏を攻め立てる姿ばかりが映ったからたまらない。
永田町関係者は「これではどちらが野党か分からない。金融恐慌危機対策や汚染米問題など麻生首相を追い込む攻めどころはいくらでもある。しかし結果的には、党首の“顔”ではなく力量をみせつける絶好の機会を放棄してしまった。劇場型政治がいいとは思わないが、現実に即したやり方というのがある。要するに、大観衆を前にいくら小さな声でいいことを言っていても、だれの心にも響かないわけです」と民主党の戦略ミスを指摘する。
民主党のマニフェストを説明する小沢氏は終始うつむいたまま。ハイライトシーンは、麻生氏に向けて「1年足らずの間に2代続けて政権を投げ出した自民党総裁が、総選挙を経ないで三度、ここにこうして首相の座にすわっているのは信じがたい光景だ」などと嫌みを言ったぐらいのものだ。
キャラ的にほえるタイプではなく、小沢氏流の美学を貫いたのだろうが、言葉は厳しくともインパクトは弱かった。
一方の麻生氏は「私がおたずねしたいのは、補正予算案への賛否、消費者庁創設への賛否、インド洋での給油継続の賛否だ」などと野党真っ青の迫力。小沢氏に「論戦に真正面から当たっていただけますようお願い申し上げます」と再度の宣戦布告をしてのけた。
「失言癖を気にして慎重になったのか、麻生氏本来の持ち味はみられなかったが、与野党の攻守交代が功を奏して、まずまずのデキだったのではないか。『解散については私が決めさせていただきます』とぶっきらぼうに述べたシーンでは強いリーダーシップをアピールできただろうし、本人も満足でしょう」(前出・永田町関係者)
第1ラウンド終了後、麻生氏は記者団に囲まれて「議論がかみ合わない感じ。こちらがうかがったことには答えてもらえなかった。残念?そうですね」と一転、クールに感想を述べた。さらに補正予算成立直後の解散総選挙を求めている民主党に対して「解散より景気対策に関心を持つのが世論だと思う」と揺さぶりをかけた。
選挙日程をめぐる水面下の攻防は激しさを増している。そもそも福田前政権から、連立を組む公明党の意向をくんで年内解散総選挙は既定路線になっており、国民軽視もはなはだしいなどと散々批判されてきた。それがいまや、民主党に解散を迫られている形。米国に端を発した金融恐慌危機に乗じて、この情勢下で解散しろというのか!と言わんばかりのポーズである。
全国紙の政治部記者は「どちらにせよ解散総選挙の流れは止められない。代表質問では、麻生首相が福田政権下での大連立構想を持ち出して、それが頓挫した際に小沢代表自ら民主党に政権担当能力がないことを認めているなどと責めた。これではあべこべ。民主党に吹いている追い風が弱くなってしまう恐れすらある」と話す。
政権与党は「攻撃こそ最大の防御」を実行している。麻生政権の出はなをくじくことに失敗した小沢民主党は、戦略転換を余儀なくされそうだ。