だが、「かわいい後輩のためにひと肌脱いで」とはいかないようである。
「順番が狂ってしまいました。先に相談しなければいけない御仁が最後になってしまいました」(名古屋在住のメディア関係者)
友利氏を始めとする松坂に好意的なグループは、まず、松坂の右肩がどれだけ回復しているのかを確認した。関係者によれば、「松坂の自己申告」とのことだが、「来季、実戦復帰できる」という。その自己申告を確かめる段取りとして、来春キャンプでの入団テスト受験などが話し合われていたのだが、松坂サイドが中日と接触したことがマスコミ各社にバレてしまった。そのため、最初に相談しなければならなかった白井文吾オーナー(89=中日新聞社会長)が、記者団からの質問でことの経緯を知るという最悪の事態になってしまったのだ。
「松坂は自宅のあるアメリカでキャッチボールを再開しており、ブルペン投球も可能だと言っていました。まあ、どの組織もそうだと思いますが、部下が自分の知らない話を進めていたら、幹部として面白くないですよね」(前出・同)
松坂の売り込みについて、こんな声も聞かれた。「現役を続けたいのなら、ソフトバンクを辞めるべきではなかった」――。コーチ契約となるが、復帰を前提としたものであり、これに松坂が強く抵抗したという。「3年間で1試合しか投げていないロートルに復帰の可能性を残してやって、なのに、コーチ契約という体裁にこだわって…」というのが、ソフトバンク側の言い分だ。
「松坂の右肩から痛みが消えたとしても、従来のキレ、スピードは戻らないでしょう。変化球中心の投球スタイルに変えるとしても、真っ直ぐにある程度のキレがなければ通用しません。友利氏など松坂に好意的な人たちは『良い死に場所』を与えてやりたい、そんな心境だと思います」(プロ野球解説者)
また、中日は世代交代を進めている。今秋のドラフト会議でも6人中5人が高校生だった。松坂獲得はこうしたチームの方針とも逆行する。否定的なコメントを発した白井オーナーのご機嫌を変えられるとすれば、新外国人選手の視察中である森監督だけだろう。
「森監督は情に厚いというか、松坂に『助けてください』と言われたら放っておけないでしょう。でも、いちばん問われるのは松坂がプライドを捨てられるかどうかです。中日は先発投手が揃いつつあり、中継ぎや敗戦処理をやる覚悟があるかどうかが問われます」(前出・同)
ソフトバンクでも先発にこだわりすぎた感があったという。松坂は速球の衰えを隠すため、16年オフにチェンジアップやカーブなどの変化球に磨きを掛けていた。しかし、それは「長いイニング」を投げるためであり、「チームに貢献するためならなんでもやる」という姿勢からではなかった。
「どの球団でもそうですが、主力選手のほとんどが松坂を見て野球を始めた世代。彼らから松坂に話し掛けることはできません。ソフトバンクでの松坂を見る限り、自分から若手に話し掛けていくタイプではありませんでした。中日に限らず、どのチームに行っても若手の手本になるということはない」(同)
ソフトバンクでの3年間を含め、苦しい状況に置かれた経験は、指導者になったときに生かされるだろう。松坂の年齢に達した他のベテランたちは年下の主力選手とどう接していくべきかを学び、同時にそのなかでどうすれば生き残れるのかを考えている。松坂が「孤高の元天才」のまま終わってしまわなければいいのだが…。