近年ではあまり聞かれなくなった職業ではあるが、昭和の末期には「殺し屋」はアウトローの世界ではまだまだ現役であり、世間を賑わせていたのである。
1988年(昭和63年)2月、千葉県某所で40歳の女性Aと、同い年のその恋人Bが殺人容疑で逮捕された。この二人は共謀し、Aの夫である浄化槽清掃会社の社長C氏を「殺し屋」を雇って殺そうとし、さらには自らゴルフクラブを持ってCを殴り殺した。
事件のきっかけは、前年の1987年に遡る。AとBはもともと中学の同級生で同窓会時に再会。そのまま恋仲となり、Aは夫であるCが疎ましく思えてきた。
そして、AはBに「夫が酒に酔っては乱暴する」と大げさに話し同情を買い、Aの気持ちに答えようとしたBは知り合いの暴力団関係者に頼み、「殺し屋」を派遣しCを事故に見せかけ殺害するよう依頼したのだ。
ところが、AとBが依頼した「殺し屋」は80年代という時代の影響もあり、(当時、暴力団対策法が施行される数年前であり、以前に比べ思うように身動き取れなくなっていた)、暴力団員は300万円を受け取りながらも、なかなか実行に移せない日々が続いていた。
そんな中、ついにCにAとBが浮気していることがバレてしまった。激怒したCは5000万円から7000万円の慰謝料を要求した上、「Aの両親を巻き込み裁判する」と言われたため、殺し屋の殺害を待てなかった二人は自らの手でCを殺害することを決意。
Cが自宅で酒を飲み酔っぱらったところを、AとBがゴルフクラブを手にCの頭を殴り撲殺。その後、証拠隠滅のため灯油をしみ込ませた布にライターで火をつけてCの自宅を全焼させたのである。
「これで幸せになれるね……」
二人はそう顔を見合わせたが、幸せな日々はそう続かなかった。犯行現場の近くで凶器に使ったゴルフクラブが発見された上、「殺し屋」を依頼された暴力団員がAとBの関係を警察に話したため、二人は即日逮捕となったのだ。
「殺し屋」をも巻き込んだ、昭和末期のロマンス物語はこうして終わりを遂げたのであった……。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)