『悪意の糸』マーガレット・ミラー/宮脇裕子=訳 創元推理文庫 900円(本体価格)
映画に傑作、駄作があるのと同様に、テレビの2時間ドラマにもいいもの、悪いものがある。例えば1981〜2005年にわたり日本テレビ系で放映されていた『火曜サスペンス劇場』。今となってはヒロインを立てた女性向けのロマンチック・サスペンスばかりが作られていた、というイメージを抱いている人が少なくないだろう。しかしイメージはイメージにすぎず、中には優れた作品もあったのだ。
'82年に放映された『死の断崖』。夏木マリがピンチを打開するため奮闘するヒロインを演じているのだが、襲い掛かる怪物のような男は松田優作だ。監督は工藤栄一。これはとても面白かった。一応ヒロイン・サスペンスという体裁を保ちつつ、優作と夏木マリの戦い合う姿に迫力があった。
あるパターンが作られてしまったジャンルにおいても、作り手が工夫を施せば十分意欲的な作品になるのだ。さて本書『悪意の糸』は本国アメリカで1950年に刊行されたものだが、今年8月に初邦訳出版された。まさにヒロイン・サスペンス小説という枠内で人間のダークな心へ迫っていこうとする文学的野心も発揮されている。主人公で独身の女医・シャーロットはヴァイオレットという初めて訪れてきた患者が心配でしようがない。夫ではない別の男性の子供を身ごもってしまったのでどうにかしてほしい、と懇願してくる。対応に困っていたが、間もなく海で死体で見つかる。どういうことなのか。実はシャーロットは妻帯者と恋愛関係にあり、他人事とは思えず独自の事件調査を始める。シャーロットは苦難の道へ入り込み、まさにヒロイン・サスペンスというストーリー展開になっていくのだが、おそらく男性読者も楽しめることだろう。男女の関係を甘ったるく理想化せず、そこに付きものの苦難を突き詰めてテーマ化しているからだ。
(中辻理夫/文芸評論家)
【昇天の1冊】
『裏モノJAPAN』(鉄人社)といえば、キワどいエロやアンダーグラウンドのネタを詳細に実践レポートする月刊誌として有名だ。最近でも“立ちんぼ”や“ワリキリ”などの悪い遊びや、下着泥棒・盗撮の手口をルポするなど、違法な世界に鋭く突っ込んでいる。
看板企画となっているのが、街行くシロート女性が小遣いをエサにその場で脱ぐというグラビアページ。バスト露出からパンチラまで、顔の半分程度を手で覆い隠しつつも、簡単に肌をさらす女が続出する名物企画である。
その衝撃写真を1冊にまとめた別冊編集『お嬢さんお小遣いあげるから脱いでください』(定価700円)が、この8月に発売されたので、手に取ってみた。
こうしたナンパヌードというジャンルは昔からあるが、同誌に掲載された写真は生々しいことこの上ない。「仕込みなし、全員素人」を謳い文句にしているだけあって、いかにも渋谷辺りをウロウロしていそうな定職を持たないフリーター、会社帰りで暇そうにしているOL、といった雰囲気の女性たちが、「別に減るモンじゃないしぃ〜」といった軽いノリで、総勢59人登場する。
あらためて思うのは、全裸より、チラ見せくらいのほうが妄想をかき立て、エロいということ。下着も高級ランジェリーという印象はなく、バーゲンで購入した安物なのがわかる女性もいて、そこがまたリアルである。しかもオールカラーのお得版。イマドキ娘の実態を知るという目的にもかなう1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)