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本好きオヤジの幸せ本棚(79)

◎オヤジ人生にプラス1のこの1冊
『幻夏』(太田愛/角川書店 1680円)

 基本的に人間は自分の仲間、敵、特には関知しなくていい者、というふうに他人を三つくらいに分類して生きている。
 冤罪事件がニュース報道で明らかになったとき私たちは、その冤罪の被害を被った人に対し一時的な同情は感じるけれど、ずっと長い期間、同情し続けることはないだろう。なぜならその人は、特には関知しなくていい者、の一人だからだ。単に報道で知った存在であり、身近にはいない。
 しかし、もう少し想像力をたくましくすれば、もし自分がこういう立場に追い込まれたらどうなるのだろうか、と恐怖心が芽生えてくる。両親や家族は、犯罪者を生んだ親、犯罪者が生んだ子供、といったように周囲からレッテルを貼られる。そして苦く、悔しい毎日を送らなければならなくなる。一人、冤罪の被害に遭った人のみならず、その近親者も他人からさげすまれる苦痛を感じながら生きていくのである。
 本作はそうした不幸を俯瞰し、総合的に捉え切った小説だ。
 12歳の少女が行方不明になり、警察が事件解明のため捜査を始める。それは単に一個の犯罪を追うにとどまらず、23年前の夏に起こった、ある少年失踪事件との関係も明らかになってくる。
 長い歳月とおびただしい数の登場人物を絡ませながら、冤罪というものが、どれだけ人の不幸を生み出すのかを描いた力作だ。
(中辻理夫/文芸評論家)

◎気になる新刊
『1995年』(速水健朗/ちくま新書・798円)

 1995年に、何が終わり、何が始まったのか−−。
 戦後50年、社会党政権の誕生、失われた20年の始まり…。阪神大震災と地下鉄サリン事件が起き、ウインドウズ95が発売されインターネットが普及し始めた。「時代の転機」を読みとき、その全貌を描く現代史。

◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり

 『NekoMon』(源/1200円)は創刊2年目を迎えたペット雑誌。だが、類似商品と異なる特徴を二つ持っている。一つは、猫そのものに加え、読者が自作した猫用グッズの紹介にページを割いているところだ。愛猫をモチーフとした置物やぬいぐるみなどが数百点掲載され、飼い主たちの愛情と労力が誌面を通じて伝わってくる。
 もうひとつは殺処分問題に取り組み、里親の応募に力を入れている点。処分ゼロに向けて活動をスタートさせた大手製薬会社や、動物福祉病院の取り組みをレポートするなど、ペットたちが抱える深刻な問題点に正面から挑んでいる。
 もちろんペット雑誌の王道である「ウチの猫自慢」や「ウワサの看板ネコ」など、愛らしい写真で綴るコーナーも充実。また連載漫画「目指せ猫男子」は、ひそかに生息している猫好き男たちを応援する内容だ。
 工夫を凝らしたひと味違う誌面に熱意を感じる。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
 ※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意

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