エンゼルスのタイラー・スカッグス投手(享年27)が急死し、それから一夜明けた7月2日(現地時間)、残されたチームメイトたちはテキサス・レンジャーズとの一戦に臨んだ。大谷は代打での途中出場だったが、最後は右手一本でライト前に打球を運び、チャンスを広げた。
「大谷がサイクル安打を達成したレイズ戦ですが(6月13日)、その日に先発登板したのがスカッグスでした。スカッグスは勝利投手になっても、メディアから質問されたのは、大谷のことばかり。でも、彼は『大谷のサイクル安打達成』を心から祝福していました」(米国人ライター)
スカッグスは2013年オフ、ダイヤモンドバックスから移籍してきた左腕だ。当時の評価はイマイチだったが、エンゼルスは「将来、先発ローテーションの主軸になりそう」と大きな期待をかけていた。
しかし、故障などもあり、不本意なシーズンが続いていた。転機になったのは、昨季中盤。覚えたばかりのチェンジアップを試合中にテストしてみた。軽い気持ちで投げてみたのだが、本人も驚くほど相手バッターのタイミングを外すことができた。その後、勝負どころでチェッジアップを多投し、空振りやゴロアウトを量産。同年は、8勝10敗。2ケタには届かず、負け数のほうも多かったが、キャリアハイの成績である。また、後半戦は事実上のエース扱いとなり、「ローテーションの主軸も」の期待に、やっと応えることができたのだ。
「スカッグスもはっきりとは教えてくれなかったので詳細は不明ですが、このままではダメだと思い、新しい変化球を覚えようとし、色々とテストしていたそうです。チームメイトのピッチャーに変化球の握りを見せてもらうなどし、チェンジアップを覚えました。大谷も変化球の握りを見せてくれと頼まれた一人だと聞いています」(前出・同)
スカッグスは投手陣のまとめ役でもあったという。
また、もっとも勝ち星に飢えていた投手でもあった。不本意なシーズンが続き、昨季前半、心無い一部のファンから、スカッグスのスマホに直接悪口メールを送られてきた。それも複数から、何度も…。
「スカッグスは傷ついていました。ふだんは明るく振る舞っている好人物が控室で考え込んでいたんですから、チームメイトも心配していました」(前出・同)
スカッグスの「勝ちたい」の気持ちは、心無い一部のファンへの反骨心ではなかった。「勝たなければ、ファンを悲しませてしまう」と思ったそうだ。大谷のサイクル安打は、「スカッグスに勝ち星を付けてあげたい」との思いから生まれたものかもしれない。
前述の代打途中出場だが、大谷は一塁ベースに向かう途中、何かを発している。感情を露わにした姿は、日本時代にも見られなかった。
今回の悲報では、チームメイトたちが「ファミリー」という言葉を使っていた。チームとしての団結力は必要だが、日本では「家族」ではなく、「親しい友人・同僚」と表現されただろう。どちらが良いという話ではない。優勝をという共通の目標に向かって、同じユニフォームを着て戦う仲間。その仲間に対し、強い敬意を込めて「ファミリー」と呼び、日本以上に選手とファンの距離が近いことを、大谷は知ったのでないだろうか。
(スポーツライター・飯山満)
※選手名のカタカナ表記は「メジャーリーグ名鑑2019」(廣済堂出版)を参考にいたしました。