巨人時代の松井を知る関係者がこう続ける。
「改めて思ったけど、彼は教えるのが巧いね。アドバイスも的確だけど、打撃コーチがその選手に対してどういう指導をしているのかを確認してから、言葉を選んでいる。臨時コーチが打撃コーチと異なるニュアンスで伝えたら、かえってマイナスだからね」
報道陣の要望で、高橋由伸監督(42)とガッチリ握手を交わすシーンも見られた。カメラマンがシャッターを押す時間はけっこう長い。こういう時、もしどちらか一方でも“腹にイチモツ”があれば、顔に出てしまう。記念撮影での様子をうかがう限り、2人の関係は良好と見て間違いはなさそうだ。しかし、この2人が並ぶと「例の話」が重なってくる。
「10日、ホークスとのOB戦が行われ、これに松井氏も出場する予定です。氏に強い影響を持つOBも来ます。巨人との今後の関係についても意見がされるものと目されています」(前出・関係者)
今後の関係とは、松井氏の巨人復帰だ。近い将来、巨人の監督を――。この話を避けることはできないだろう。
松井氏の野球殿堂入りが決定した際、もっとも強い影響力を持つ長嶋茂雄・終身名誉監督は「いつの日か、指導者としてその手で次代の日本を背負える4番打者を育ててほしいと願っています。それが今の私にとって、大きな夢の一つです」のお祝いメッセージを送った。「――と願っています」のあとに、「それが私にとって、大きな夢の一つです」と付け加えたところが意味深い。高橋監督は3年契約の最終年を迎えた。今季もリーグ優勝を逃すようなことになれば、進退問題に発展するだろう。しかし、こんな情報も交錯している。
「1月30日(現地時間)、ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGM(50)が米スポーツ専門テレビ局ESPNに出演し、ここまでの20年間に及ぶGM生活を振り返っていました。『自身にとって、特別な存在となる選手はいたか』とも質問されたんですが…」(米国人ライター)
同GMが挙げた選手は3人。歴代最高セーブ数を記録したマリアノ・リベラ、長く主軸投手としてチームを牽引したアンディ・ペテット、そして、松井氏を挙げた。ホルヘ・ポサダ、アレックス・ロドリゲスでもなく、松井氏を挙げていた。しかも、リップサービスではないという。
「松井氏はヤンキースの『ゼネラルマネジャー付特別アドバイザー』の肩書も持っています。傘下の1Aチームの練習などを巡回して若手選手を指導したり、時にはスカウトみたいなこともやっています。有望な若手を見つけるとチームに報告するんですが、けっこう眼力はあるそうです」(前出・同)
現役時代の真摯な姿勢、指導力と若手を発掘するスカウティング能力。キャッシュマンGMとの信頼関係を考えると、そこに巨人が割って入るのは並大抵ではないだろう。
巨人OBのプロ野球解説者がこう言う。
「今の松井氏は英語もペラペラ。ヤンキースに移籍したころは通訳が帯同しなければ何もできなかったのに、今では『英語で指導したほうがやりやすい』と言っているくらいです」
巨人選手の多くは松井氏に教わる機会を「貴重なこと」と話していた。09年ワールドシリーズでMVPにも選ばれた勝負強さ、打撃理論は、まさに生きた教科書である。
「でも、若い選手はちょっと遠慮して、松井氏を遠くから見ているだけ。偉大すぎるからかな? 自分からもっと聞きに行かなければダメ」(前出・同)
ヤンキースとの蜜月関係を崩せるとしたら、師匠・長嶋氏しかいない。高橋監督が満面の笑みで握手を交わすことができたのは、「監督」として巨人に帰還する可能性がゼロに近いことを分かっていたからだろうか。