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本好きオヤジの幸せ本棚(95)

◎オヤジ人生にプラス1のこの1冊
『大関の消えた夏』(須藤靖貴/PHP研究所 1680円)

 味わいで読ませる小説、というものがある。ストーリー構成がきっちり完璧でなくても、文体なり登場人物のキャラクター造形なり、ほかの光る要素で読ませる作品だ。本書もそういう類いに入れていいのではないかと思う。
 作者は1964年生まれで、スポーツ雑誌の編集者経験がある。'99年に小説新潮長篇新人賞を得たデビュー作『俺はどしゃぶり』はアメリカンフットボール同好会を舞台にしていた。以後、自身の経験を生かしてスポーツを題材にした小説を多く発表してきた。
 本作は相撲界を取り上げている。初の黒人大関・荒把米は無敵だった。その強さは誰もが認めるところであったが、なぜか今場所では格下力士から負け続ける。その理由は、荒把米が急に弱くなったわけではなく、何かもっと大きな相撲界の思惑が働いて負けさせられたからではないか、と彼は思う。場所中に失踪してその謎を探ろうとするも、何者かに狙撃されてしまう…。
 体裁はミステリー小説である。しかし、優れた謎解き小説ともいえない。つまり、伏線がしっかりと書かれて、それが最後の事件解決に結び付くという構成は成されていないのだ。主人公は荒把米の失踪を助けるラーメン屋の店員で、彼が相撲界の裏に隠れている悲劇を見つめる温かみが読みどころと言っていい。文体、語り口で読ませるミステリーだ。
(中辻理夫/文芸評論家)

◎気になる新刊
『とまらない』(三浦知良/新潮新書・714円)

 次、そしてまたその次の1点へ。そしてまた次の1勝へ。無理だと周りが思うのは、そんな人が今までいなかった、というだけなんだから−−。
 歩みをとめない「キング・カズ」自身による、前人未到の領域から放たれる言葉の数々と前進の記録。

◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり

 『ナース専科』(エス・エム・エス/900円)という月刊誌を購入してみた。発行所のエス・エム・エスは、介護・医療事業全般に携わっている企業。求人案内や人材派遣も行っており、雑誌発行はその事業の一貫として、現場で働く女性へ向けた情報誌という位置付けを持っているらしい。
 医療現場のマニュアルでは対応しきれない難しい患者への対応を、ナースたちへのアンケートを基に作成した記事が興味深い。気難しい、要領を得ない患者とのコミュニケーションのあり方、思い込みが強く非協力的な家族への対応など、看護の幅広さと難しさを実感させられる。
 ナースという職業は、つくづくストレスの溜まる激務なのだろう。
 とかく好奇な視線で見られがちなナースだが、地道な仕事内容を知るにはうってつけ。WEBサイト『ナース専科[コミュニティ]』と連動し、看護師の疑問や悩みに答えるHPも開設している。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
 ※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意

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