対戦相手はK-1戦士のジェロム・レ・バンナで、総合ルール。グラウンドができないK-1ファイター相手の総合での試合とあって、周囲もファンも、スカッとした一本勝ちを期待した。バンナは01年大みそかの「INOKI BOM-BA-YE」で、安田忠夫に総合ルールで一本負け。一躍、安田がヒーローとなった姿は記憶に新しいところ。主催者側が石井に、あのときの安田の再現を期待したマッチメークであったことはいうまでもない。「どちらが勝つか?」という勝敗の興味で視聴者を引っ張るなら、総合の強豪選手を当てただろう。
試合はほとんど石井がコントロールした。しかし、寝技がほとんどできないバンナを決められなかった。結局、3ラウンド15分が経過し、判定決着へ。石井の判定勝ちが告げられた瞬間、場内からはブーイングが飛んだ。
試合後、石井は「ブーイングは応援の裏返しだと思う。それだけ、期待していただいていることだと思う。次は一本、KOで勝ちたいと思います」と冷静に分析。分かっているなら、実行してくれといいたいファンも多いだろう。実に4年10カ月ぶりに総合の試合を行なったバンナは、この試合に当たって、特に寝技の練習はしなかったことを吐露している。いわば、ピエロになるのを覚悟の上で臨んだバンナを、決められなかった石井は観客、視聴者の期待に応えられなかった。
「石井は柔道時代から一本勝ちより、勝負に勝つことを第一にやってきました。その姿勢はプロになっても、変わりません。リスクを冒してまで一本を取りに行くことはせず、負けない試合に終始しています。このスタイルを続ける限り、ファンから評価を得ることはむずかしいでしょう。プロはただ勝てばいいというものではないですから」(ベテランのスポーツライターA氏)
09年大みそかのプロデビュー戦で、吉田秀彦にいいところなく完敗。1年後に訪れた名誉挽回の機会をモノにできず、ヒーローになりそこねた石井。「試合内容がつまらない」とレッテルを張られた石井の今後の起用法に、FEGは頭を悩ませるに違いない。
(ジャーナリスト/落合一郎)