番組は、一般人や著名人100人の中から選ばれた1名のチャレンジャーが、それを阻止しようとする99人のブロッカーを相手にクイズに挑戦するというもの。奇をてらっているのは、出題クイズは自分がもっとも得意とする分野限定である点だ。スタートは、1人vs25人。そこからvs50人、vs75人、vs99人と増えていき、見事に99人の壁を撃破すれば、賞金100万円を獲得できる。
事前のオーディションで選ばれた100人のうち、99人はスタジオのすり鉢状の東西南北に位置する。ここには、2〜3人の芸能人が普通に混ざる。井戸田潤(スピードワゴン)、武井壮、ゆりやんレトリィバァほか、多くのタレントがここに陣取った。その四面に囲まれたド真ん中のチャレンジャー席の1人は、佐藤とより多くやり取りする。かなりの圧迫感があり、プレッシャーを与えられるポジションだ。
称賛されるのは、佐藤のマルチぶりだ。佐藤は常に、目の前の1人、囲む99人に目を配らなければならない。各々の特徴や、プレートに書かれている得意ジャンルを把握しながら、対話をして、ツッコんで、ゲームを進行。なかば苦行同然の司会だ。あの明石家さんまでさえ疲弊しそうな高カロリーだ。おそらく、番組でもっとも高くキツい壁にぶち当たっているのは、佐藤本人だろう。
それを肌身に染みているからか、佐藤は背伸びしない。舞台経験も豊富な役者なので、四面から視線を感じることは慣れたもの。その上で、アドリブ力もあり、スピードもいい。進行を妨げない間合いも、質疑の着眼点も問題ない。しかし当然、100種類もの分野に対応できるほどのスペックは持ち合わせていない。その際の切り返し、切り抜け方も絶妙だ。
「はー」「すごーい」「ふえー」「なんと」「すばらしい」と叫んだかと思えば、「ワタクシもう、何も言葉が出てきません」とむき出しでギブアップすることも、しばしば。役者らしい声量と声質、大衆酒場になじんでいそうな風貌も佐藤の魅力。嫌味のない親近感が、土曜ゴールデンの視聴者の温度に、ちょうどいいのだ。
ちなみに、センターの2人を東西南北でぐるりと囲むスタジオ設定には、ヒントがあったという。14年3月30日、東京・両国国技館で開催された『2014 千原ジュニア40歳LIVE「千原ジュニア×□」in 両国国技館』が、それだ。番組には、千原ジュニアの「ち」の字もない。
ここにも壁があったようだ。
(伊藤雅奈子)