初めにこの話題が取りざたされたのは、2007年から毎月行われている「首都神話ライブ」でのこと。お笑い芸人であり、首都神話のミステリーハンターでもある島田秀平が「東京に張り巡らされた結界」の話をした時のことだ。渋谷のハチ公像と上野の西郷隆盛像は、皇居を挟んで建っている。よってこの2匹は、東京を守る結界の役目を担う狛犬として建てられているのではないか? というものであった。そして今回、この説の信ぴょう性を、「追跡!首都神話捜査網」で検証することになった。
まず島田が重きを置いたのは、ハチ公とツンの銅像の向きである。狛犬は通常向かい合わせになっており、顔だけが正面を向いている。では、ハチ公とツンはどうであるのか。
島田はまずハチ公像の向きを調べた。すると、まっすぐ東を向いていることが分かった。では上野にある西郷隆盛像はどうなのか。さっそく調査へと現地に向かった。
明治政府設立の立役者の一人であった西郷隆盛の像は、もともと皇居内部に建てるという計画があった。しかし、明治10年の西南戦争によって西郷は明治政府、天皇に弓引く逆賊とされた。そのため、皇居にはふさわしくないということから、現在の上野の地に建てられることになったという。問題のツンはどこを向いているのか。島田が実際に現場で調べたところ、ツンの顔は南東、つまり東京湾に向かっているという
さらに島田の調べにより、上野という土地にも意味があることがわかった。上野とは、皇居から見て北東に位置する。島田の友人でもあるホラー作家で「NMR」メイン執筆者の山口敏太郎氏に確認したところ、古来土地に結界を張る場合、重要な場所から見て北東の方角である鬼門に逆賊を祭り、転じて守り神にすることが多いという。有名な例で言えば、平将門の首塚が挙げられる。将門の首塚は、皇居の北東に位置する千代田区大手町にある。山口氏のコメントにより西郷隆盛とツンが帝都を守護する役目を担っている可能性が十分にあると判明した。
上野にはツンが狛犬である理由が存在する。しかし、渋谷のハチ公は上野とはまったく異なる場所を向いている。ハチ公とツンが東京の結界を守る狛犬である説は間違いだったのか?島田氏の調査も行き詰まりかけたところに新たな情報がもたらされた。それは、ハチ公像はこれまでに2度移動しており、その度に向きが変わっているということだ。前回、ハチ公像の位置が変えられたのは1989年のこと。この年は昭和という時代が終わり、その数年後バブル経済が終えんを迎え、日本が不況へ向かうことになった。もしかすると、これは東京を守る狛犬だったハチ公像の向きを変えたためではないだろうか? 島田はそう結論づけたのだった。つまり、日本のバブル経済の崩壊は、帝都の結界を守護するハチ公の向きが変わったために、引き起こされたのだ。