『ロスト・ケア』(葉真中顕/光文社 1575円)
第16回日本ミステリー文学大賞の新人賞受賞作である。作者は1976年生まれで、30代後半だ。すでに別名義で書いた小説も発表しているが、本腰を入れた形でミステリー作家としてデビューした。
粗削りの感は否めない。しかし勢いはある。作者が結末まで一定の情熱や緊張を維持しながら完成させたからだろう。物語は2011年、裁判所で〈彼〉なる男が死刑判決を下されるところから始まる。しかしどういう罪状で裁きを受けたのか、詳しくを作者は書かない。ページが進んで間もなく、時間は一気に'06年にまでさかのぼる。検事の大友が、老父を富裕層向け介護付き有料老人ホームへ体験入居させるシーンだ。しかし、ずっと大友が中心人物になっているわけではなく、次のシーンでは母親を自宅介護しているシングル・マザーが主役になり、〈彼〉の殺人シーンも挿入され、と展開がかなり急いでいる。このあたりが粗削りと勢いの中間ぎりぎりと言えるわけだ。作者は先に書いた情熱と緊張に加え、混迷も抱えて書いている。介護を家族の絆の象徴と捉えるハートウオーミングな意見、それを偽善だとするダークな意見を両方混ぜ合わせながら性善説、性悪説の問題にまでテーマを深めようとして必死なのだ。必死になれば混迷もする。しかし見事にストーリーを帰着させている。誠実さを感じさせる作家だ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『漢字雑談』(高島俊男/講談社現代新書・840円)
義「援」金、名誉「棄」損、膨「張」…おかしいなと思う漢字の使い方にまつわる話や、「編」と「篇」の違い、古く中国から入った日本語とは? 明治に英語が入ってきて、日本語はどう変わったか? などなど、漢字と日本語の秘密にふれる楽しい名コラム集。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
今話題の「日本一美しい32歳」壇蜜のスゴいムックが発売されている。何と壇蜜自身がプロデュースして制作したパンティーが特別付録という逸品、その名も『蜜パン』(KKベストセラーズ/1500円)だ。
付録パンティーのカラーは「人妻のピンク」「処女の白」「未亡人の紫」「愛人の赤」の4種類のうちの一つ。どれが入っているかは、買ってからのお楽しみということらしい。
購入した雑誌に封印されていたのは「紫」だった。しかも、穴開きTバックときたモンだ…。
その他、最新の撮り下ろしグラビアに「蜜の32年」「エッチ激白」といったスペシャルインタビューも掲載。告白手記的なインタビューは彼女の性の目覚めから濃い男性遍歴まで網羅されており、壇蜜という女性の素顔も垣間見える。
男性諸氏へのサービス精神にあふれた1冊。並みの女性タレントでは、ここまでできないだろう。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意