依然として、有力のベテラン選手はFA市場に溢れている。松井の立場はますます苦しくなったが、その余波は日本にも及んでいた。
所属先が決まらない有力選手たちが、日本球界への売り込みを始めたという。
「ビッグネームの売り込みなんで、ちょっとビックリしました。具体的には言えませんが、年俸でも獲得可能な条件でした」(某球団関係者)
米FA市場には、通算449本塁打のブラディミール・デレーロ、2年連続シルバースラッガー賞(04〜05年)のミゲル・テハーダ内野手、09年WBCベネズエラ代表のマグリオ・オルドニェス、投手では通算159勝、シドニー五輪、09年WBCでも好投したロイ・オズワルトが残っている。
往年のパワーは見られないかもしれないが、彼らは「浪人するよりはマシ」と思っているようだ。福岡ソフトバンクと契約したブラッド・ペニーが「メジャー球団と交渉できない」と判断するなり、日本球団に目を向けたケースが思い出される。そんな日本球界への売り込みに関する情報を、そのまま米国人メディアにぶつけると、こんな答えが返ってきた。
「日本球団の本当の狙いは松井だったはず。彼が自宅のあるニューヨークの郊外でトレーニングを再開してからも、日本の関係者が訪ねてきたなんて情報もありましたから。繰り返しになりますが、松井は日本に帰る気はありません。松井との接触をはかった日本の球団は2通りに分けられると思います。単に松井のネームバリューが欲しいところと、本当に戦力としてスラッガーを補強しなければならないチームです。後者のチームで、それなりの資金が出せるのなら、米FA市場に溢れているベテラン選手と簡単に契約できると思いますよ。松井と接触しようとしたら、『現地でベテランメジャーリーガーの代理人から売り込みを受けた』ということかもしれません」
本当に戦力を欲しているチームなら、松井でなくてもいいわけだ。
デレーロのパワーなら、日本の低反発の統一球でも影響は出ないだろう。また、テハーダはコンパクトスイングにも定評がある。衛星放送によるメジャーリーグ中継も浸透しているので、「昨年ポストシーズンで力投したオズワルトを観たい!」と思うファンも多いのではないだろうか。
「一般論として、シーズン開幕後に所属先の決まらないメジャーリーガーは、独立リーグ(米国内)やメキシコ球界にも交渉先を広げます。そこでそれなりの数字を残せば、カムバックできますが、環境面を考えれば、日本球界の方が絶対にいい」(前出・同)
松井が日本帰還を頑なに拒む理由は、巨人を退団した02年に「仲間たちを裏切った」負い目と、それなりの覚悟を決めたからだという。「メジャーリーグのペナントレースが開幕した今も、その気持ちが変わらないのなら…」と、複数の日本球団関係者は松井の元から撤退した。しかし、「松井が欲しい!」と水面下での交渉を続けた各球団には、まだ70人の支配下登録枠は残っている。その残された人数枠を、有名メジャーリーガーが狙い始めた。松井が意地を通せば、日本帰還の可能性もゼロになってしまう。
※去就先未定情報は4月15日時点です。また、メジャーリーガー等のカタカナ表記は「メジャーリーグ選手名鑑2012年版」(廣済堂出版)を参考にいたしました。