「野村監督は継投策をとるから、完投数は仕方ないところもある。なにしろ21勝したという価値と、年間ホームランをわずか3本しか打たれていないのは素晴らしい」と。いくら抗議しても一度決まったものがひっくり返ることはない。
しかし、ファルサさんが頑強に主張したのもわかる。メジャーリーグ球団にアピールしようと思えば、沢村賞は価値ある勲章だろう。近鉄→ドジャース・野茂英雄、阪神→ヤンキース・井川慶、西武→レッドソックス・松坂大輔、巨人→パイレーツ・桑田真澄、巨人→オリオールズ・上原浩治、中日→ブレーブス・川上憲伸と、沢村賞受賞者のメジャー入りは数多くある。日本一の本格派投手という看板だから、獲得するメジャー側には大きなバロメーターになるのだろう。
そして、WBCこそがメジャー側にとって、現在最高の選手品評会の場になっているのだ。西武・松坂に対し、ポスティングでレッドソックス側が仰天の総額100億円もの値を付けたのは、第1回大会MVP受賞が最大の理由だ。メジャーリーガー相手の成績はそのままシーズンにも当てはまる。そういう当然の考え方だ。だから事実上のMVP岩隈と、抑えで怪物ぶりを発揮したダルビッシュの株は高騰している。
「メジャー側は岩隈とダルビッシュの2人を最大級に評価している。松坂と同等のランク付けをしている。ダルビッシュは以前から第二の松坂としてマークされてきたが、ノーマークだった岩隈も天井知らずで株が上がっている。『こんないい投手がいたのか』とメジャーの球団関係者は驚いている」。日本人メジャーリーガーを取材する日本人記者がこうメジャーの新相場を明かす。
ダルビッシュ本人は「メジャーには全く興味がない」と終始一貫してメジャー行きを否定しているが、ファルサ氏の考え方、さらに日本ハム側の球団事情もある。「資金力不足の日本ハムは年俸3億円を超えているダルビッシュをこれ以上抱えられないだろう。ポスティングで松坂クラスの落札金(60億円)が球団の懐に入るのだから、メジャー行きを認めるのは、時間の問題だろう」。球界関係者の見方は一致している。
岩隈の方もメジャー行きの可能性が一気に高まってきている。WBCでメジャーリーガーに通用することがわかった岩隈本人が、これまで見せなかった米国行きへの興味を募らせているという。「結局、岩隈もメジャーへ行ってしまうんやろ」。野村監督はこう吐き捨てている。日本球界内部の見方も同じだ。「楽天はお金にシビアな球団だから、今の岩隈の年俸3億円は上限だと思っているだろう。メジャーが大金を出せば、喜んでポスティングで岩隈を送り出すでしょう。日本ハムとダルビッシュの関係と一緒です」。
どちらが高値でどの球団へ行くのか。すでに焦点はそこに移っている。「岩隈は自分から代えてくれと言う。エースじゃない。日本のエースはダルビッシュだけか」。野村監督はこうボヤいているが、メジャーでは完投不要だ。松坂に続く日本人メジャーリーガー新エース争いが今から楽しみだ。