『大迷走』(逢坂剛/集英社 1680円)
逢坂剛といえばスケールの大きなストーリー展開を得意とするエンターテインメント作家、と思う人は少なくないだろう。1986年に直木賞を得た『カディスの赤い星』が、この作家の代表作の一つであることは間違いない。日本とスペインを舞台にした国際謀略小説である。同じ年にスタートした〈百舌〉シリーズは公安警察をクローズアップしており、こちらも重量感あふれる娯楽小説だ。
だが一方で軽妙な、いい意味でこぢんまりとした作品も書いているのだ。〈御茶ノ水警察〉シリーズである。
生活安全課保安二係の係長・斉木斉とその部下である梢田威は元小学校の同級生だ。タメ口で会話を交わすけれども上司と部下、というアンバランスな関係がユーモラスである。もともとこのコンビは'85年刊の短篇集『情状鑑定人』に収められた「暗い川」で初登場しているのだが、時を経て'97年の『しのびよる月』から本格的にシリーズが始まった。続刊の『配達される女』『恩はあだで返せ』等、いずれも連作短篇集である。
本書『大迷走』はシリーズ初の長篇だ。御茶ノ水警察署管内の大学でドラッグの取引が行われているのではないか、という疑いを持って捜査を始めた二人が、いつしか大ごとに巻き込まれ…というストーリー。クールな斉木とお人好しの梢田が、あたふたと混迷しながら悪に立ち向かって行く姿が実にいい。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『最後の制服』渡辺麻友写真集(集英社・1400円)
AKBの渡辺麻友が、日本全国の実在する94の高校の制服を着用するという、まゆゆ大好きオジさんにはたまらない写真集。水着や体操着姿の部活“再現”シーンまで盛り込まれていて、まるで教師と生徒の禁断愛を妄想してくださいと言わんばかりの完璧な内容だ。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
ギャルママ向け専門誌『I LOVEmama』(インフォレスト/580円)は、キャバクラ嬢マガジン『小悪魔ageha』(同社)の姉妹誌として誕生した雑誌だ。キャバ嬢やギャルの中でも“子持ち”だけを対象とした、日本でも珍しい雑誌といえる。
シングルマザーを意味する“シンママ”や、美しいママを表す“美ママ”が数多く登場し、どの女性も子どもを連れたスナップ写真が掲載されている。つけまつげに巻き髪という、とてもママには見えない女性たちだが、いずれも20代前半の子持ち。美容、ファッション、それに育児と、扱うテーマは女性誌そのままだが、最新号では「100人のデコ弁展」と題し、夫や子どもに作るかわいらしいお弁当特集が組まれており、ギャルママたちの日常を垣間見ることができる。
若くして子どもを産んだ女性たちのハツラツとした姿を見る限り、少子化問題も杞憂に思えてくるほどだ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意