大卒4年目の昨シーズン、主に代打で結果を残し、さらなる飛躍を期待されての今シーズン。タイプの似通った鈴木尚典コーチの「本能で打て」との指導の下、オープン戦では.464と絶好調で、4月まではそれなりの成績をあげていた。しかし5月には登録抹消も経験し、再び上がってきてからも6月.067、7月.077とバットから快音は響かなくなると、3年目の大型外野手・蝦名達夫が台頭。群雄割拠の外野手争いから遅れをとる形となってしまった。
三浦大輔監督から「もう一度信頼を勝ち取るためには、自分がやるしかない。思い切ってプレーしてこい」とゲキを飛ばされを発奮し、8月からは反撃に転じた。2日のカープ戦ではリードオフマンとして難攻不落の森下暢仁からホームランを含むマルチヒットをマークし、翌日は代打からゲームに入りヒット1本、さらに延長11回のノーアウト1塁の場面ではしっかりと送りバントを決め、宮崎敏郎のサヨナラヒットを導いた。
そこを起点に2番でのスタメン起用が多くなると、送りバントの役割も増した。戒めとなっているのがバンテリンドームでの失敗で「ミスをしてはいけない。あの1回の失敗で強く思った」とより実感。「田中浩康コーチにどれだけピッチャーから遠くにバントできるかとのアドバイスを頂いて、そこから変わった。バントは時間を稼ぐモノだと」との教えが生き、16日は2回とも成功してみせた。
2番という打順に「自分が主役にならなくてもいい。なんとかチームが勝てるように一つでも貢献して、勝って試合を終えたい」と、打線の歯車としての役割を全うしたいと言葉に力を込めた楠本泰史。流した悔し涙が実を結ぶ日は、もうすぐそこに迫っている。
取材・文・写真 / 萩原孝弘