1968年から1974年にかけて、カリフォルニア州サンフランシスコを中心に少なくとも5人が殺害され2人が負傷。さらに犯人が自ら犯行の内容をマスコミに通報して喧伝し、自分の正体を記した暗号文を送り付けるという行動に出たため「劇場型犯罪」の典型例としても知られている。
犯人は声明文で、黄道十二宮を意味する「ゾディアック」を多用していたため「ゾディアック事件」と呼ばれるようになった。彼が送り付けた手紙には警察がまだ公開していない、犯人しか知り得ない事実が明確に書かれており、「被害者は37人いる」「事件を新聞で大きく取り上げないと『何かすさまじいこと』をやる」と脅していた。警察も厳戒態勢で臨んだのだが、この声明を最後に犯人の動きは途絶えてしまった。
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ゾディアックの手紙には特徴があり、署名の代わりに円の上に十字を重ねたマークが描かれていた。また、暗号文は複数存在しており、中でも1969年11月にサンフランシスコ・クロニクル(San Francisco Chronicle)紙に届けられた暗号文は340の暗号や記号が17行にわたり並び、非常に複雑だったため長年謎のままだった。なお、この暗号文より前の9月に送り付けられたものは、まだ単純な暗号であり、地元の学校の先生と彼の妻によって解読されていた。しかしその内容は「殺人が好きだ。ものすごく楽しいからだ」というもの。来世で自身に仕える奴隷を集めているという異様な主張が読み取れるものだった。
そして今年に入り、長く謎だった340暗号の解読に成功したという報道があった。解読したのはアメリカのウェブデザイナー、デービッド・オランチャク(David Oranchak)氏で、彼は2006年からさまざまなコンピュータープログラムを駆使し、解読作業に取り組んできた。暗号文は1950年代に米軍が使用していた暗号化マニュアルに登場するものに近く、内容は自慢話や当局への反抗的な言葉が含まれていた。だが、犯行動機や犯人の身元を示す手掛かりはなかったという。
暗号は解読に至ったが、50年以上経った現在でも犯人は不明のままだ。果たして、犯人の正体が明らかになる日はくるのだろうか。
(山口敏太郎)