「内海は試合後、『ようやくライオンズの一員になれた』と謙虚に語っていましたが、試合前から『内海さんに勝ってもらいたい、勝たせたい』の声が聞こえていました」(スポーツ紙記者)
緩急をつけ、変化球を低めに集め、対戦打者の打ち損じを誘っていた。5回2安打6奪三振、無失点。ベテランらしい駆け引きも見せてくれた。しかし、この復活勝利は、3連覇を狙う埼玉西武の弱点と、新たなチームに生まれ変わったことも秘かに証明していた。
「辻発彦監督もチームが勝つために、内海を勝たせるために最善の策を取ったということでしょう」(プロ野球解説者)
内海の勝利をサポートした捕手は、強打の森友哉ではなく、ルーキーの柘植世那だった。
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柘植は昨秋ドラフト会議で5位指名された。下位指名ではあるが、社会人野球出身であり、「即戦力」と見込まれていた。柘植を知る他球団スカウトがこう評する。
「群馬県の健大高崎校時代から、捕手としてのセンスは全球団が認めていました。肩が強く、社会人(Honda鈴鹿)に進んだ後、配球がさらに巧くなりました。打撃力は普通かな。昨秋ドラフトでは、千葉ロッテに進んだ佐藤、中日が指名した郡司など、『打撃力の高い捕手』もいたので、目立ちませんでした」
前回登板(8月22日)で内海とバッテリー組んだのは、森だった。打撃優先の森をスタメンから外し、配球センスの高い柘植にベテラン復活の望みを託したのだろう。
「森をスタメンから外すということは、攻撃力が明らかにダウンします。そのリスクを負っての柘植のスタメン起用でした」(前出・プロ野球解説者)
森の配球力不足を問われたら、連戦が続くことを理由に「リフレッシュ休暇を与えた」と言えばいい。同日の試合後、代表質問を務めたメディアは柘植のスタメンマスクについて質問していないが、森を傷つけないための配慮もされていたように見えた。
「仮定の話になるが、以前の西武ならば、バッテリーの配球面に心配があるのなら、炭谷がスタメンマスクをかぶっていました。炭谷の抜けた穴を柘植が埋めています」(球界関係者)
捕手・炭谷銀仁朗のFA移籍があって、内海の西武移籍が決まった。巨人のユニフォームを着た炭谷も、奇しくも、同日の試合でスタメンマスクをかぶり、故障明けのサンチェスを勝利投手に導いている。
ルーキー・柘植がしっかりとベテランをリードし、“炭谷ロス”を消し去った。自身の意思で移籍した選手と、移籍を余儀なくされたベテラン。双方が新天地で戦力として活躍している。内海の復活勝利は意義深いものにもなったようだ。(スポーツライター・飯山満)