現在は緊急事態であり、ドラマの撮影が今後再開するにしても、数カ月のブランクが空くことが予想される。中には数話だけ放送しただけで打ち切りとなるケースが相次ぎそうである。
さて、テレビドラマの突然の放送中断であるが、業界内では放送をやめる時より復活させた時の対応がより大事だとされる。多くの視聴者はテレビの内容以上に、毎週特定の曜日、時間の番組を見るという習慣を大事にするという。放送再開の際の対応が伝説的だったとして、語り継がれているのが、特撮番組『帰ってきたウルトラマン』(1971年)の放送中止事件である。
『帰ってきたウルトラマン』は当時、毎週金曜の19時から放送されていたのだが、この年の7月30日午後2時過ぎ、岩手県上空を飛行中の全日本空輸(ANA)の旅客機と航空自衛隊の戦闘機が衝突、墜落し旅客機側の乗務員・乗客合わせて162名が死亡するという大事故が発生した。
各テレビ局は、生中継でこの事件を報道。19時から放送されるはずだった『帰ってきたウルトラマン』も放送中止となった。なお、この時放送する予定だった18話はウルトラ兄弟がゲスト出演する回であり、テレビを見ていた子供たちは1週間の「ウルトラセブンのお預け」に強いショックを受けたという。
そして翌週、8月6日に18話が無事に放送されたのだが、オープニングでウルトラマンに変身する郷秀樹(演:団次郎)からのメッセージがあった。「こんばんは。郷秀樹です。先週は急にお休みしてごめんなさい。今夜はウルトラセブンも出ます」という特別ナレーションが挿入されたのだ。
1週間という時間のない中での特別対応だったが、セブンの登場を心待ちにしていた子供たちにとっては、このメッセージはうれしかっただろう。同時に制作サイドの視聴者に対する真摯な対応だったといえる。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)