FAは選手個人の権利であり、「FA権の行使=移籍」の解釈も定着しており、外様選手、生え抜きで線引きをするのは適当ではないのかもしれないが、今季、期待されている左腕が順調に勝ち星を挙げられなかった場合、阪神も今オフ、去就が注目されている投手の獲得に動くようだ。中日・大野雄大だ。
「新型ウイルス禍でFA取得に必要な日数をどう数えるか、今季に限っては特別ルールが用いられそうです。でも、選手にFA権を取得させないルールにはならないでしょうし、大野がFA権を今季取得すれば、間違いなく、今オフの主役です」(ベテラン記者)
昨年オフの契約更改で大野は複数年の提示を蹴って、単年契約を交わした。それを受けて、加藤宏幸代表が「それだけ自信があるということ。1年勝負してから考えたいという彼の思いを」と地元メディアにコメントし、慰留・説得に失敗したことを匂わせていた。
防御率1位(19年)、ノーヒットノーランも達成した左腕が動くとなれば、全球団が動くだろう。しかし、阪神の見方は少し違う。
「阪神は大野に対し、完全な苦手意識を持っているはず」(在阪記者)
昨季の阪神打線は大野に対し、3勝0敗(6試合)。防御率1・35、9月14日にはノーヒットノーランも食らっている。この難敵を味方に変えれば、それだけで大きなプラスとなる。他球団も大野を評価しており、大争奪戦となるのは必至だが、阪神内には3年目の左腕・高橋遥人を育てるべきとの意見もあるそうだ。
「矢野燿大監督も高橋を大きく育てようとしています」(前出・同)
高橋はキャンプでの評判も良かった。昨季の成績は3勝9敗。急成長したというわけではない。走者を背負った場面で打たれたこともあったが、打線の援護に恵まれない日も多かった。阪神キャンプでこの高橋を見たプロ野球解説者がこう言う。
「オトナになったね。投球練習を見ていると、力任せに投げ込むことはなくなったし、投球と投球の間の『間』の取り方が上手になった。考えながら投げていました」
大野、高橋ともに左の先発投手だ。大野を獲得すれば、高橋の役回りが減る。高橋を大きく育てるためにも「慎重になるべき」という意見もあれば、「お手本になる先輩として絶対に獲るべき」の意見の両方があるそうだ。
「大野を獲得すれば、自動的に2ケタの勝ち星が計算できます。FA宣言するとなれば、マネーゲームになるのも必至」(前出・在阪記者)
2019年、ナゴヤドームは阪神にとって鬼門だった。同球場でのチーム打率は1割8分9厘。本塁打5、得点29は他球場での成績と比べても、もっとも悪い。繰り返しになるが、特に大野に苦しめられていたが、投手陣は違う。ナゴヤドームでのチーム防御率は2・69。セ主要球場の中でトップの好成績である。対中日戦のトータル成績は10勝14敗1分け。14敗のうち3敗が大野に付けられたものである。その大野が「ライバル・巨人に行く」なんてことになったら…。阪神は高橋の一本立ちと同時に、巨人のFA市場に対する動向も見極めなければならないだろう。(スポーツライター・飯山満)