ペナントレース開幕戦のさらなる延期を決めた「プロ野球実行委員会」が開かれたのは、4月6日だった。各球団の会議出席者は会議室を出ると同時に取材陣に囲まれ、「開幕戦の遅延」に関するコメントを発していた。その時、最も多くの取材陣に囲まれていたのが阪神の谷本修球団本部長だった。チームから新型コロナウイルスの感染者を出してしまったせいもある。しかし、別の目的もあった。「現役ドラフト」(ブレークスルードラフト)についてだ。
「実行委員会は定期的に開催されています。一連の感染騒動がなければ、4月の実行委員会では、『ブレークスルードラフト』が主議案とされるはずでした」(球界関係者)
ブレークスルードラフトとは、出場機会に恵まれない現役選手を対象に、12球団が改めて“ドラフト会議”をするというもの。メジャーリーグ、韓国プロ野球ではすでに導入されているが、その指名対象の選手の基準、開催時期などについては最終決定には至っていない。
谷本本部長は実行委員会の中で、選手会の担当トップである。ブレークスルードラフトの行方も気になるが、大勢のメディアに囲まれた理由はそれだけではない。「阪神はこの新制度導入に賛成する」との情報が駆け巡っていたからだ。
年長のプロ野球解説者がこう説明する。
「出場機会の少ない選手にすれば、移籍して試合に出られるのだから、同制度の導入に期待しているようです。でも、監督、コーチ、経営陣の立場で言えば、二軍で数年を費やして育てた選手を他球団に引き抜かれるような心境です。三軍制を敷いているソフトバンク、巨人などは特に特に思っているはず」
選手会が同制度の導入を提案した時点から、「せっかく育てた選手が」と、育成システムとの矛盾を指摘する声は出ていた。三軍制を敷いていない球団からも難色を示す声が聞かれていただけに、「阪神が賛成に回った」の情報は、衝撃的である。
同日、谷本本部長は落ち着いた口ぶりで、「その話は出ていません。2020年中にやるのはしんどくなりましたというのが(12球団の)共通認識。それどころではないし」と答えていたが…。
「ブレークスルードラフトのポイントは、やはり、どんな選手が指名の対象となるのかの基準作りです。現実問題として、12球団が納得するような基準は作れそうにありません。ソフトバンク、巨人、広島など育成に力を入れてきたチームが泣くことになると思われます」(前出・プロ野球解説者)
「出場機会がない」には、長期スランプに陥った選手も含まれるとしたら、真っ先に思いつくのが藤浪晋太郎だ。
藤浪に限らず、長期スランプに陥った選手が他球団で活躍したら、旧在籍チームは大恥をかくことになる。
関係者によれば、賛成に回った理由は「球界の活性化」とのこと。正論だが、本当にそれだけだろうか。今後、同制度を巡り、阪神と巨人は大論争を繰り広げることになりそうだ。(スポーツライター・飯山満)