公共交通機関や公務員を管理する地方自治体や運営会社などが「コンビニに寄ることもある」「飲食することもある」と説明し、理解を求めているが、不寛容な人物から筋違いのクレームが入ることは多い。「不寛容社会」が、社員や職員を苦しめている。
そんなクレーム社会の「生きにくさ」を象徴する出来事が、2019年7月に発生している。舞台となったのは山形県のJR羽越線遊佐駅。列車を運転していた男性運転士(37)が、体調不良を訴え、病院に搬送されたのだ。
当時、山形県内は猛烈な暑さとなっており、運転士は熱中症になっていた。そして、そこに至ってしまった要因と見られているのが、「モンスタークレーマー」の存在。熱中症を防ぐには、こまめな水分補給や塩分の摂取が必要となるが、運転士は乗客からの「水を飲んでいる」というクレームを恐れ、我慢していた様子。結局、暑さに耐えきることができず、遊佐駅で交代。当然代わりの運転士は遊佐駅にはいないため、列車は50分運転を見合わせることになった。
このニュースが報じられると、「一部の悪質なクレーマーによって生きづらい世の中になった。運転士がかわいそう」「水を飲むなって言ってる人たちは、公共交通機関に勤務する人間がロボットだと思っているのではないか」「日本全体がおかしい。寛容力がなさすぎる」と運転士への同情やクレーマーへの怒りの声が挙がる。
また、「気にせず水を飲めばよかった」「クレームを入れられても正しい行動なのだから堂々としているべきだった」「クレームを恐れてはダメ」と、運転士の行動を疑問視する声も出た。
「水を飲んでいた」とクレームを入れられることを恐れた運転士に批判もあるが、会社が守ってくれるか否か不明な状態であれば、我慢してしまうのも無理はない。責めるのは酷というものだ。
公共交通機関に勤務する人々や、公務員もれっきとした人間。「食べるな」「飲むな」といったクレームは、明らかな筋違いだ。
文 櫻井哲夫