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渋谷淳の渾身のローブロー

 日本スーパーライト級タイトルを13度防衛し、このクラスの連続防衛記録を打ち立てた前日本王者の木村登勇(横浜光)が現役から退く決意をした。7月4日、キャリア44試合中37試合を戦った後楽園ホールのリングで引退式を行う。

 おそらく、ここ何年かの間では、すべての階級を通じて最も群を抜いた実力を持つチャンピオンだったろう。ブレイクのきっかけは日本ライト級王座から陥落した02年。クラスをひとつ上げて、減量苦から解放されたことだった。
 04年4月、日本スーパーライト級タイトルを獲得してからの活躍はすさまじかった。計15度の日本タイトルマッチでKO勝利が10度。KOを逃した試合も、内容的には大半が圧勝。同じクラスの関係者から「早く返上してくれ」とため息がもれる強さだった。

 昨年9月、ボクシング界の期待を背負ってWBA王者アンドレアス・コテルニク(ウクライナ)に敵地で挑戦。「木村なら」という期待から、私もウクライナまで飛んだが、中量級における世界の壁は厚く、大差の判定負けに終わった。
 帰国後の2試合目で日本王座から陥落した。しかし、ボクサー木村は世界戦の敗北で、事実上終わっていたのかもしれない。昔から木村は「世界チャンピオンにりたい」と決して口にしないボクサーだった。「モチベーションは?」と問うと、必ず返ってくるのは「ボクシングが面白いから」という答えだった。
 コテルニク戦の直後、木村は敗北したにもかかわらず「面白かった」と笑った。世界の一級品に挑んだ12ラウンドは極上の体験だった。そして最高の楽しさを味わってしまった故に、国内のファイトでは、もう「面白い」と感じられなくなってしまったのである。
 技巧派で頭脳派で度胸もあったボクサーがリングを去る。いつの日かまた、木村のようなボクサーは現れるだろうか。

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