「○○駅は飛び込みが多い」等の、人身事故にまつわる噂だ。
噂によっては「○○駅」ではなく「○○線」であったりと範囲が広がる事もある。中にはある駅の電車の到着を知らせるベルの音が自殺を促す、等とする荒唐無稽なものもある。しかし、これらはやはり何れも噂の域を出ないものでしか無く、証明することはほぼ不可能に近い。実際、国交省が開示する鉄道人身事故リストを集計してみても、利用者が多い駅では必然的に人身事故が発生する確率も高くなる、というごくありふれた結果しか出てこない。
しかし、鉄道関係の業務に就く、ある人はこう語る。
「ある駅で飛び込みが多いとか、そう言う事はあり得ない。でも、電車の運転士でやたらと自殺の現場にあう人はいる」…と。
電車の運転士という仕事をしていると、やはり一度はそういう現場に遭う事になるそうだが、人によっては何十年も電車を運行させてきたベテランなのに一度も自殺の現場に遭わない例や、その逆の例もあるのだという。
電車への飛び込み事故の場合、逸れる事の出来ないレールの上を走っている電車はとっさによける事が出来ないため、列車との事故で人命が失われた場合でも運転士には殺人罪などの責任は一切問われない。しかし、やはり事故のショックで自分から運転業務から離れ、駅構内などの電車そのものに関わらない仕事に就きたがる人もいるのだという。
「やっぱり、ショックなんですよね…向こうもこっちの電車の方を見ながら、タイミングを計ってから飛び込んできますから。様子はごく普通なのですが、大抵目が合ってしまうそうで「この人、自殺する」と直感でわかるそうです…だから、人の亡くなる直前の顔を見てしまったと言う事で、罪悪感にかられて続けていられなくなる人がいるんだそうです」
だから、いわくつきの駅や路線があると言うよりも、普通の人がこっち(運転席)を覗き込んでくるという自然な仕草の方が、よほど怖かったりしますね…と、彼の遣る瀬無い表情が印象的だった。
(山口敏太郎事務所)